視点 オピニオン21
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ミーティングポイント・ドゥープラス代表  長ケ部 さつき(大泉町北小泉)



【略歴】武蔵野音楽大ピアノ科卒。自宅でピアノ教室を開く傍ら、2001年に音楽を通じた地域交流を図ろうと「ミーティングポイント・ドゥープラス」を設立。



キッズ・ミックス誕生



◎なくなった「言葉の壁」



 いっしょに歌を歌おう!と呼びかけた子どもたちが大泉町文化むらに集まってきた。隔週土曜日の練習に通ってきた日本とブラジルの子どもたちは80人を超えた。合唱団の名は「キッズ・ミックス」。

 時間に対してこだわりのないブラジルの子どもたちと、規則正しい生活習慣の日本の子どもたちとで、同じように練習を進めていけるだろうか? という不安があった。そのころのブラジルの子どもたちは、毎回同じ時間に集まることも難しく、音楽の授業も受けた経験はなく、椅子に30分も座っていることができなかった。楽譜や教材を持ち帰る習慣もなく、毎回練習が終わるとそのまま置いてあるという状態が続いた。もちろん、日本語は全く分からなかった。

 言葉が分からない子どもたちがいるので、説明することを優先できない。音楽が常に流れている環境の中で、理屈抜きに何度も歌って、いつの間にか日本語を覚え、そして歌うことが楽しいと実感させることを大切にしよう、と考えた。私たちは楽譜を使わずに練習することにした。言葉を置き換えずに、ダイレクトに日本語を教えた。ローマ字でふりがなをつけることもしなかった。曲目は楽しく体を使って覚えられるようなものを選んだ。日本の曲だけでなく、ブラジルの手遊び歌も取り入れた。

 初めはお互いはにかんでいて、座る場所は離れていた。歌っているうちに子どもたちの顔に笑みがこぼれ、目は輝いてきた。ブラジルの歌の発音は、子どもたちがポルトガル語の先生になった。ブラジルの手遊び歌は、ブラジル人の母親が先生になった。いつの間にか、子どもたちは解け合い、「壁」はなくなっていた。それどころか、お互いの良いところをどんどん吸収していった。

 ある日の朝、駐車場から練習に向かうと、ブラジルの子どもたちが、手に黄色い表紙の楽譜を持って、文化むらの池のまわりで遊んでいた。早くから来て、楽しみに待っていたのだ。このころは、遠く県外から通って来る子どももいた。「なぜ、ここに来るの?」と聞いてみると、「ここは、普通に接してくれるから」という返事があった。

 子どもたちの発表の時がやってきた。歌う曲は『上を向いて歩こう』『明日があるさ』『うみ』『ふるさと』『子どもの世界』とブラジルの歌2曲。文化むら・小ホールには、元気に歌う子どもたちの歌声が響きわたった。

 この子どもたちは、遠い海を渡ってやってきた。子どもたちの行ってみたい国はどの国なのだろうか? ホールの中は、子どもたちの姿を見つめる両国の親たちや、支える人たちの温かいまなざしにあふれていた。







(上毛新聞 2011年3月12日掲載)