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座繰り糸作家  東 宣江(安中市鷺宮)



【略歴】和歌山県出身。嵯峨美術短期大学テキスタイル(京都)卒。2002年来県。碓氷製糸農業協同組合(安中)で座繰りを学ぶ。07年から養蚕も行っている。



おこさまネットワーク



◎蚕糸文化に触れる場を



 梅の花が香る2月下旬、安中市立磯部小学校にて、この春に卒業を迎えた6年生に生糸の福袋を贈呈する、ささやかな式が行われた。贈ったのは、地元のボランティアグループ「おこさまネットワーク」だ。中学生になると通学距離が長くなるため、交通安全と全員の幸福を願ったものだ。

 今回は、昨年の7月から活動を始めた、このグループを紹介する。グループでは、「子供と蚕がつなぐ地域ネットワークの再生」を一つのテーマとしている。スタッフは平形知津子代表を中心に、幅広い年齢層の女性が8人集まった。私もその中の一人だ。グループの名称は、子供の意味と、昔から蚕のことを「お蚕こさま」と呼んで、大切に育ててきたことを文字に込めた。

 この安中市は、県内でも養蚕の盛んな土地で、蚕に親しみのある人は多い。県外出身の私がこの地で、養蚕や座繰りに取り組めるのも、そうした土地柄だからこそと思う。しかし、それも年代が若返るにつれて薄れている。そこで、おこさまネットワークでは、蚕をシンボルに、子供からお年寄りまでが一緒に楽しめる場が作れないかと考え、昨年は初年度ながら、さまざまな催しを行った。その中でも、4年前から平形代表らが自宅の庭を会場に主催している「いま市」というイベントでは、蚕にまつわるクイズや、座繰り器で繭から生糸をつくる体験を行った。お年寄りが懐かしんだり、小学生が繭の中の蛹(さなぎ)に驚いたり、3歳くらいの幼い子が若い両親に見守られながら座繰り器の取手を回す姿は、ほほえましい情景だった。

 取り組みの中でもありがたかったのは、地元の磯部小学校が関心を持ってくれたことだ。安中市内では、3校が毎年または隔年で蚕の飼育を行っている。磯部小学校では3年生が毎年行っているのだ。そこで、より深く地元の文化に触れてもらおうと学校に協力をいただき、私の仕事場である養蚕家屋を会場にした体験学習が行われた。この時期は、ちょうど晩秋蚕が繭をつくったところで、2階の部屋に約2万個の繭が回転簇まぶしに入って天井から下がっていた。これはインパクトがあったようだ。後に、3年生と担任の先生から感想文が届いた。簇に入った繭や初めて座繰り器を回したことが、文章やスケッチで表されていて、私たちの励みとなった。 取り組みの締めくくりは、福袋作りだ。蚕を育てることから地域の人に参加をいただいて、地元の6年生に卒業記念として毎年贈れたらと考えている。今回は、イベントなどで取った生糸を原料に、初めて機織りをした。袋の中には、ねじった小さな生糸を入れ、表の布には卒業生のイニシャルを刺繍(ししゅう)した。ぜひ、息の長い活動としたい。







(上毛新聞 2011年3月15日掲載)