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なかや旅館社長  阿部 剛(みなかみ町湯桧曽)



【略歴】沼田高、新潟大経済学部卒。1994年に実家のなかや旅館に入り、98年から現職。著書に『1日10分!「おもてなし」ミーティングがあなたのチームを強くする』。



学校と「おもてなし」



◎相手の立場で考える



 「おもてなし」の語源とも考えられる「もてなす」という動詞を広辞苑で引くと、複数ある意味の中の一つに「大切にすること」とありました。おもてなしをすることとは、相手を思いやり、大切にすること。こう考えれば、人を育てる学校でも「おもてなし」は無関係ではないでしょう。

 今回は、一昨年に知り合ったY市在住のM先生からお聞きした話の紹介から。その舞台は中学校です。現在は退職されているM先生ですが、まだ現役で中学の校長先生だった時、ある「粋な計らい」をしました。

 それは、卒業する中学3年生を対象にした、卒業間近の季節外れのキャンプ。先生はあえてこの時期に、お互いもうすぐ別れ別れになってしまう卒業生を連れ、1泊のキャンプに行ったのだそうです。キャンプ会場では、夕食とお決まりのキャンプファイア。しかし、この後M先生が卒業生に伝えたという言葉に、私はシビれてしまいました。

 「お前ら、今日は寝るな。寝てはいけない。もうすぐ、仲間ともお別れだ。一晩中寝ずに、一緒にいたい仲間と、夜が明けるまで語り合うんだ」

 それを聞いた子どもたちは大歓迎と歓喜の表情で先生の指示に従い、夜を徹して友と語り合い、翌日は本当に満足そうないい顔をして、朝を迎えたそうです。M先生が行った、季節外れのキャンプで語り明かす一夜という温かい企画。これは卒業生にとって、何よりの「おもてなし」だったに違いありません。

 学校という場には、さまざまな規制・制約が存在します。「時間を守りなさい」「勉強をしなさい」「先生(大人)の言うことを聞きなさい」等々。これらは、もちろん子どもたちが成長していく上で、身に付けていってもらいたい大切なことばかりです。

 しかし、子どもたちの成長にとっての第一歩は、その規制・制約を理解し、受け入れてもらうところから始まります。規制を強いるがあまり、「反発という結果」を子どもたちの心の中につくってしまったのでは、「教育という目的」から見れば、完全な逆効果です。

 今回紹介したのは、学校や教育現場の出来事でしたが、違う角度から言い換えれば、「正しいこと(こちらの言い分)をただ単に伝えるのではなく、時には自分の立場や正しさを離れ、相手の立場になって考えてみること。そして時には、必要とあれば、自分の『正しさ』をも手放し、相手の言い分に立った行動を、大胆に行ってみること」といえるかもしれません。

 このM先生の話は、教育現場に限ったことでなく、私たちが身を置く実社会に置き換えても、十分学ぶべき点の多いヒントが隠された「おもてなし溢あふれるエピソード」だと思うのですが、皆さんにとっては、いかがでしたでしょうか?







(上毛新聞 2011年3月20日掲載)