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川柳さろんGunma世話人  河合 笑久慕(太田市薮塚町)



【略歴】上州時事川柳クラブ事務局長。本名は遠坂孝雄。県川柳人協会委員。川柳研究社幹事。みやま吟社会員。古川柳研究会会員。昨年3月より「川柳さろんGunma」開設。



川柳のいろいろ



◎心のゆらぎを見つめて



 新しい出発を前に胸はずむこの時節。大地震の、言語に絶する惨状にぼう然。巨大な悲しみにおのずと合掌せざるを得ません。われに返り、数々の思いが川柳にも詠まれつつあります。復興への祈りや希望を込めて…。

 さて、川柳の種類について入門書などでは「課題詠」、「自由詠」というように課題の有無で分け、これに「時事吟」などを加えて説明する例が一般的です。

 ところで、初回に「自分の思いを句に表現」と書きました。ここでは、その「思い」を手がかりに川柳のいろいろを考えてみます。

 国語辞典を開くと、「思い」とは(1)物事を理解したり感受したりするときの心の働き(2)ある対象に強く向けられる心の働き―など多くの意味が列挙されています。いわば感情や感覚をも含め、<心のゆらぎ>とでも言えるでしょうか。

 人間は常に<心のゆらぎ>を感じつつ生きています。

 感動、喜怒哀楽、夢、希望、ときめき、安らぎ、慈しみ、愛いとしさ、嫉妬、悔しさ…。正負両面さまざま。何の「思い」も抱かず過ごすことなど想像できません。

 川柳は小説、随筆、詩、短歌、俳句など他の文芸と並び、さまざまな「思い」を言葉で汲(く)み上げることで表現されるわけです。

 当然ながら、「思い」にはそれを生じさせる対象があり、それも「思い」と同じく多彩です。その対象ごとに川柳のいろいろがあります。それを便宜的に次のように分類してみます。

 (1)「思い」そのもの(内面の追究)(2)人生、家庭、仕事など日常生活の中で生起する自分自身や身辺の事柄(3)時事的な事柄も含めた政治、経済、国際情勢、環境問題、科学・技術、スポーツ、芸能、事件・事故、その他の社会事象全般(4)歴史上の事柄(5)自然、地球、宇宙のこと。

 「川柳は何でも詠む」といわれます。関心のおもむくところ何でも川柳の素材になります。一方、「川柳は人間(人事)を詠むもの」と強調されてもいます。そのためかどうか、実際は(1)や(2)の句が大半でしょう。この二つは最も身近で取り組みやすいことは確かです。心情の発露や日常の体験をそのまま句にでき、その充実感も魅力的。作句数も膨大でしょうし、そのうえ公平な選句の結果とあれば、一言もありません。

 ただ、人がその時代と社会の中で存在している以上、人間とその生活の諸相を詠む場合にも、時代と社会の状況から目を逸(そ)らすことはできないでしょう。

 十七音字の器の中に何をどう盛り付け、一句の世界を描くか、もっと社会事象などにも目を向け、(3)(4)(5)の世界が、その中の人間の姿が探究されてもよいのではないでしょうか。

 自分の<心のゆらぎ>を見つめつつ、こんなふうに考えてみました。







(上毛新聞 2011年3月21日掲載)