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大川美術館館長  寺田 勝彦(桐生市宮本町)



【略歴】東京都出身。学習院大大学院修了(美学美術史専攻)。学習院女子高等科科長などを歴任。学習院名誉教授。清春白樺美術館理事。日本ユネスコ協会連盟会員。


美術館の役割



◎出会いや交流の場に



 群馬県がこのほど作成した、県立美術館や博物館と県内の観光素材を結びつけて紹介するルートマップ「MUSEUM」<休日はうさぎ倶楽部>に、当館もとりあげていただいた。ちなみに<うさぎ倶楽部>とは、冊子の扉に「知的な好奇心をくすぐるいろいろな情報をキャッチする大きな耳―中略―うさぎ倶楽部に入部して感性を磨き、感動を胸いっぱいにしてみませんか」とある。

 その中で当館は、県立館林美術館を中心とする「東毛アート・コレクションコース」に「日本近代洋画から現代美術まで幅広いジャンルがそろう、木々に囲まれた隠れ家的美術館」と紹介されている。自然豊かな小高い丘(水道山)の中腹にたち、一見地味にも見える当館のたたずまいは、たしかに隠れ家的存在と言えるかもしれない。そのためか、館内では若いカップルが手をつなぎ、絵の前で幸せそうに語り合う姿もよく見かける。桐生の大川美術館はデートコースという声さえ聞かれるこのごろなのである。 もちろん、当館最大の魅力は、その優れた収蔵作品にある。夭折(ようせつ)の画家・松本竣介や野田英夫を中軸に、日本の近・現代絵画や彫刻、ピカソやルオーなど海外作品に至るまで大変充実している。まさに見る者の感性を磨き、胸いっぱいの感動も与えられるはずである。

 さて、このコースの紹介では「桐生の古き良き街並みはアート作品といってもいいほど良い雰囲気で、見て歩いて飽きません」と桐生の街歩きの魅力にもふれている。桐生にはノコギリ屋根工場や蔵などレトロな街並みばかりでなく、織物業の発展に育まれた豊かな食文化の楽しみもたくさんある。

 そして、地方の私立美術館としては際立って充実度が高いとの定評があり、全国から多くの美術愛好家が訪れる当館も、桐生の観光振興の一翼を担っていると思っている。

 ただ、美術館について考える時、たとえ私立美術館といえども、単に絵画や彫刻などの美術作品を展示して、それを見てもらったらそれでおしまいというのでは、将来の発展はありえないのである。

 子どもの教育や生涯学習の拠点などとして、地域社会に積極的に貢献しなくてはならないであろう。美術作品という共通財産を絆として人びとが出会い、また、交流し、お互いの価値が発見できる場となれば美術館として理想的だと思っている。もっと地域に根を張り、地域の人びとに親しまれ、人びとが誇りを持つことのできる美術館でありたいものである。






(上毛新聞 2011年3月23日掲載)