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東洋大学国際観光学科教授  古屋 秀樹 (茨城県古河市)



【略歴】埼玉県狭山市生まれ。東京工業大大学院修了。専門は観光交通計画、観光行動分析。筑波大講師などを経て、2008年から現職。赤城山振興有識者懇談会委員。


カンボジアの今



◎観光を平和の標として



 東北、関東地方における震災によって多数の方々がお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りいたします。また、避難生活をおくる方も多く、食料、ガソリン、温かい環境などの充足や通信、上下水道、交通等のインフラの復旧が待たれます。各方面から支援がありますが、早期にこれまで通りの生活や就業が実現するよう祈念いたします。

 このような地震や火災、あるいは戦争によって地域は大きな打撃を受けるが、人々は力を合わせてそれらを乗り越えてきた。2月下旬に訪問したカンボジアでは、かつてポル・ポト政権によりインテリ層をはじめとする大虐殺が行われ、国民の4分の1が亡くなったとも言われている。こうした苦難を乗り越えて、現在はアセアン諸国の一国として活発な経済活動や都市の整備が行われている。

 私にとってはこれまでなじみの薄いカンボジアであったが、初めて訪問するその地の人々はとてもフレンドリーで温和な笑顔をたたえ、朴訥(ぼくとつ)で親近感や安心感を覚えずにはいられなかった。そして、ここでは国旗に描かれているアンコールワットをはじめとする観光が有力な社会の牽引役、外貨獲得手段として着目されている。

 現在、年間100万人を超える外国人旅行者がアンコールワット周辺を訪れている。GDPの12%を観光産業が生み出し、外国人対応のためか、観光施設などで働く人々は英語を使いこなしている。アセアンの公用語が英語であることも一因であるが、環境に適合しながら新たな歩みを力強く踏み出しているように感じた。

 王立プノンペン大学では、過去の失われた時間を取り戻すべく多くの学生や教員が集い、教育・研究が行われていた。カンボジア日本共同センターや日本語学科の設置をはじめ、2003年には観光学部が設置され、教育・研究サイドからも観光が着目されている。現在は博士課程設置のために教員メンバーが31歳の学科長を先頭に、精力的な取り組みを行っている。大きな苦難のもとで人々が協力し、自国・地域の資源を大切にしながら周辺環境とマッチした振興に取り組んでいることが大きな特徴と考えられる。 「観光は平和のパスポート」といわれるように、生存のための環境が整った後に観光需要は生起すると考えられる。日本でもこのたびの大きな打撃から滞りない復興を達成し、観光を心から楽しめる時が再び来ることを期待したい。

 残念ながらカンボジアとタイの国境では交戦があり、その原因は世界遺産に指定されたプレアビヒア寺院の帰属問題である。地域の誇りが高じた一例といえるが、ぜひとも観光が平和の標しるべとして機能することを願ってやまない。






(上毛新聞 2011年4月1日掲載)