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医師  佐藤 和子(高崎市片岡町)



【略歴】桐生市生まれ。桐生女高、福島県立医科大卒。麻酔学や医化学を研究し兵庫県立尼崎病院心臓センター、国立循環器病センター勤務。元大塚製薬健康推進本部長。


備えておきたい食品



◎命を支える赤群・青群



 3月11日の東日本大震災は千年に一度の巨大な災害であった。津波の被害も桁違いに大きく、命を落とされた方々も多く、被災者の方々の深い悲しみを身近に感じ、お役に立ちたい気持ちでいっぱいである。

 阪神淡路大震災の際、知人への緊急救援物資として喜ばれた食品は、厚切りかつお節と煮干しなどであったことを思い出す。生命維持のためには、水と食物は欠かせない。水が最も重要で、次がタンパク質である。“生命とは、タンパク質が機能している姿”といえるほど重要である。

 タンパク質を構成しているアミノ酸の中でも、必須アミノ酸は私たちの体内では作りだせないので他の生物から補給しなくてはならない。しかも一つだけの不足であっても生命力は低下する。アルブミン合成、ヘモグロビン合成、免疫グロブリン合成に際しては、植物の生育の栄養条件と同様に、リービッヒの不分律が働いているからである。

 このような事情から、災害時の緊急食事としてご飯、パンなどは熱源として確かに大切だが、これらだけでは長期の健康は保てない。身体を構成している成分はとても速い速度で絶えず入れ替わっているので、生命を支えるには必須アミノ酸の豊富なタンパク質源の補給が欠かせない。

 特に魚が大事で、豆・肉・卵、乳製品が続く。干魚や魚の缶詰は有用であるが、缶詰の選び方には注意がいる。必須脂肪酸の含有量の違いで血栓もできやすくなるからである。魚の脂質はω3系が豊富で、EPA、DHAも多く、EPAは血栓予防に、DHAは記憶力や目の網膜機能に重要な役割を果たしている。ところが、魚の油漬け缶詰では、植物油の添加によりω6系が高濃度となり、魚のよさが消えてしまうので水煮缶詰を選びたい。

 健康維持にはビタミンの補給も欠かせない。

 食品をその栄養素含有量の特色から、交通信号のように赤・青・黄群に分類すると小児にも伝わる。赤群はタンパク質・ビタミンB群・ビタミンD・ミネラルなどの供給源で、魚介類・豆・肉・卵・乳類である。青群はビタミンA・C、ミネラル、食物繊維などの供給源で、緑黄色野菜・淡色野菜・果物・海藻・茸である。黄群は主に炭水化物、脂質、エネルギーの供給源で、穀類・芋類・酒類・砂糖・油脂類である。

 赤群と青群が生命の支えの中心と考えてみると、災害時の対応に用意しておくと望ましい食品が見えてくる。厚切りかつお節、煮干し、干しするめいか、魚水煮缶詰、殻付き干えび、炒豆、きな粉、塩豆、昆布、各種の漬物、ドライフルーツ、干し芋等々。

 原発事故に対しての準備は整っていない、というのが現状である。皆さまと共に避けて通れる道を模索したい。






(上毛新聞 2011年4月10日掲載)