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音楽ライター  サラーム海上(東京都世田谷区)



【略歴】高崎市出身。本名は海上卓也。明治大政経学部卒。2000年からフリーで執筆。和光大学オープンカレッジ講師。ラジオのレギュラーとしてDJも担当する。


震災と音楽



◎苦難のとき問われる力



 東日本大震災に伴う2次被害、3次被害により、音楽業界もかつてない危機に直面している。

 まず震災直後には日本全国で大小コンサートやイベントの自粛が相次いだ。次に被災地のCD製造工場が大破し、流通網が絶たれたことで、国内大手メーカーの多くが3~4月に予定していたCDの発売を延期せざるを得なくなった。計画停電が始まると、電力が行き渡らないコンサート会場が出てきたり、交通手段が途絶え、重ねて放射線の風評被害により集客も激減してしまった。日本への渡航自粛勧告によって来日を取りやめた海外の音楽家も数知れない。

 4月1日の時点で、インターネットのある大手チケット販売サイトでは1300件以上の公演が中止または延期となり、払い戻しされている。イベント会社の大半は零細企業だ。被害は甚大すぎて言葉も出ない。全国で盛んに開かれている夏の大型音楽フェスティバルも、もうすぐ始まる季節を前に、電力、機材、スタッフ、海外の音楽家の確保だけでなく、不謹慎や自粛というムードがもたらす集客への影響など、大きな問題を抱えたまま準備を進めている。

 そんな中でも前向きな行動を起こす音楽家も多い。米国人女性歌手シンディー・ローパーが震災後の来日ツアーで寄付金を募ったことは新聞やテレビでも報道された。続いてフランスの大女優で歌手のジェーン・バーキンも急きょ来日を決め、4月6日に渋谷クラブクアトロでゲリラ的に無料コンサートを開いた。

 日本ではインディーズの音楽家たちの動きが早かった。シンガーソングライターの七尾旅人やタブラ奏者のU―zhaanらは、震災の後に作った新曲を1週間空けずにインターネットの配信サイトDIYHEARTS上で発表し、投げ銭形式の有料ダウンロード販売を行い、その売り上げを義援金に回している。手前みそになるが、僕もこの企画に参加させていただいた。西インドの砂漠の村に住む楽師の友人たちが演奏するインド民謡を、僕が収録した音源ファイルと映像、文章と合わせて提供しているので、興味を持たれた方はDIYHEARTSと検索していただきたい。

 「こんなご時世に音楽どころじゃない!」という意見もあるだろう。だが、テレビをつけても、新聞を開いても、インターネットを見ても、暗い話ばかり伝わってきて、誰もが多かれ少なかれデマや風評に右往左往し、そして目に見えぬ放射線におびえながら暮らしている。そんな今だからこそ、音楽をはじめとする芸術が存在する理由が問われているのではないだろうか。

 たかが音楽、されど音楽。音楽家たちが今後何を歌い、何を演奏するか、僕はこれまで以上に注視していきたい。






(上毛新聞 2011年4月14日掲載)