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中之条ビエンナーレ総合ディレクター  山重 徹夫(中之条町上沢渡)



【略歴】広島県出身。多摩美大卒。制作ディレクターなどを経てデザイン事務所Playground Studio主宰。アートイベントやクリエイティブセンターTSUMUJI運営。


いまアートにできること



◎伝えたい「気づき」の力



 3月11日、大きな傷跡を残した大震災は、日本が進んできた道のりに大きな影を落とした。加速する高エネルギー消費社会は自分たちの暮らしをさらに便利にし、多くのメーカーもそれに応えるように新商品の開発を行ってきた。しかし、電力によって支えられていたわれわれの日常生活は、原発事故という形で大きく足元をすくわれることになってしまった。今回、日々の生活がこのようなもろ刃の剣の上に成り立っていることに初めて気づかされた人は、決して少なくはないだろう。

 問題なのは、今の経済成長の道筋がエネルギー消費量と比例する関係にあることであり、このままの道を進むと地球規模でエネルギー不足の状況を迎えることになる。そのため原発はいまでも世界各地で建設されているのだ。

 昨年、私は数人の作家仲間を連れて拠点を都心から吾妻の地に移した。そこでアートを通じて地域にさまざまな貢献をしながら、自然と共に生きる暮らしを始めたいと思っていたところだった。近所には便利なコンビニや都会的な遊ぶ場所はないが、ここに広がる風景や人々の昔ながらの営みには、代え難い魅力を感じている。本年開催予定の中之条ビエンナーレ2011ではこの土地の持つさまざまな魅力を、作品を通じて来場者に見てもらおうと考えている。震災後、参加作家の多くはイベントが開催できるのか不安に思っていただろう。このような状況下ではアートの立場は危うく、必要ないと判断されれば中止を余儀なくされる。イベント開催の決定趣旨をメールで伝えたところ、作家たちは本当に喜んでくれた。いま誰もが自分のできることで何かの力になりたいと思っている。それは作家も同じだ。「こんな時だからこそ、アートがやらなければいけないことがある」。皆が口を揃えて言った。

 アートには「気づき」の力がある。作家はある種アンテナのような役目だと私は思っている。その土地に残る風習や文化や精神など、時間がたつにつれて見えなくなるものがある。それをアンテナを張り巡らせ、掘り起こして作品という見える形にする。日本の現代社会においても死角となっている部分が多くあるが、アートはそれをどのような切り口でみせ、道標の一つになってくれるのだろうか。人間が失敗から多くのことを学ぶためにも、いま立ち止まり進むべき道をもう一度見据えることが必要だと思う。そのために作家は自分の仕事をする。

 中之条ビエンナーレ2011はそんなアートの持つ役割を多くの人に伝えることができればよいと思う。そして多くの人たちが民族や国境を超え、日本を助けようとしている中、私自身も自分にできることで力になれるように努めたい。






(上毛新聞 2011年4月15日掲載)