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黒沢病院附属ヘルスパーククリニック院長・画像センター長 
                                佐藤 裕一
(高崎市矢中町)



【略歴】新潟県柏崎市生まれ。日本大医学部卒。同大医学部内科学教授を務めた後、2009年から現職。


放射線診断と被ばく



◎危険は非常に少ない



 福島第1原発事故の一連の報道で、事故で放出された放射線量がどの程度なのか、胸部X線やCT撮影による被ばく線量と比較され、医療における放射線被ばくに関心をお持ちになった読者も多いことでしょう。今回は放射線診断で使用される放射線被ばくについてお話しします。

 太陽や大地からの放射線(自然放射線)はわが国では約1・5ミリシーベルト(mSv、この単位は人体が受ける放射線量を表す)ですので、この値を基準に考えると分かりやすいと思います。医療被ばくは検診における胸部X線、胃レントゲン、マンモグラフィー、CTが主なもので、年平均2・3mSvです。すなわちわれわれ日本人は年間3・8mSvの被ばくを受けていることになります。放射線検査の場合、検査を受ける利益が、放射線被ばくによって生じる危険(白血病、甲状腺がん、肺がんなど)を上回っていなければなりません。

 もちろん年齢、性別、被ばくをうける臓器によって被ばくの影響は異なりますが、一般に1mSv被ばくしても、致死性のがんの発生する確率は10万人に1人以下といわれ、その程度の被ばくであれば、無視できる範囲です。一般に放射線検査による寿命短縮は6日、飲酒は130日、自動車事故は207日、肥満は900日、喫煙は2250日(BernardL.Cohen I-SingLeeによる)とされていますので、医療放射線の危険は非常に少ないといえます。

 しかし、無駄な放射線検査は極力避けるべきです。もっとも被ばく量が多いのはCT検査(X線)とPETを代表とする核医学検査です。報道ではCT検査による被ばくは6・9mSvとされていますが、最新の機器でははるかに少なく、われわれの施設では胸部単純(造影剤を使わない)および頭部単純CTが1・5~2mSv、冠動脈造影CTが2・5~3mSvと低くなっています。

 一方、PET検査は近年早期がんを発見する目的で健診でも利用されています。その被ばく量はPET/CT(多くの場合精度を高めるためにCT画像と同時に撮影します)で8~10mSvと比較的高いのですが(PET単独では4~5mSv)、乳がん、大腸がん、甲状腺がん、頭頚部腫瘍、悪性リンパ腫の診断には有用性が証明されています。

 しかし、健康人ではPET健診による利益はいまだ定かではありません。ですから、現状では健康人がCTやPET検査を何度も受けることには疑問があります。一方、近年MRI拡散強調画像による腫瘍健診が実用化されつつあります。MRIでは放射線被ばくはありませんので安心して受けることができ、肝臓、腎臓、前立腺など、PETでは診断が難しいがんの診断も可能ですから、今後健診では普及していくことでしょう。






(上毛新聞 2011年4月19日掲載)