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プロデューサー・プランナーK&AssociatesInternational代表  
                               川島 佳子
(東京都港区)



【略歴】館林市出身。立教大大学院修了。企画会社、財団職員などを経て現職。NPOちきゅう市民クラブ事務局長、県人会理事、ピッコロ・バイオリン研究会代表、ほか。


「自粛」に思う



◎普通の生活心がけよう



 群馬県人会理事の末席を汚し、芸術文化の会・グルメの会を担当している。先日、山種美術館でボストン美術館所蔵浮世絵展を鑑賞後、仏料理の会食を実施した。未曽有の大震災の前に準備したものだが、中止にするかどうか大いに迷った。しかし、県人会の意義は何かと問えば、故郷を離れた県人が、互いに家族のように親しく集い助け合うことにある。こんな時こそ、集うことの意味があるとの認識で実施を決めた。さらに、1カ月先には状況が進展してほしいとの願いと希望も添えての案内だった。

 早速「こんな時に不謹慎」とのFAXを1人の方からいただいた。一方、「こんな時にご苦労さま」とのねぎらいの電話も数人からいただいた。当日、山種美術館は大変な盛況で、作品前には人垣ができるほどだった。錦絵の黄金時代の名品展との呼び声も高く、TV番組の影響もあったかもしれない。また、震災の後だからこそ、何かを求めて美術館に足を運んだ人もいたかもしれない。

 震災後、多くのコンサートや会合が中止や延期になっている。こんな時だからこそと実施されたものも多い。私が主催の文化事業は、会場へのアクセスの問題などを考慮して延期した。いずれも趣旨や諸条件、安全性等を熟慮し、それぞれが苦渋の選択であったろうと思う。それぞれの決断と行動に敬意を表したい。

 このような国難に際し、「日本は一つ」「団結」という掛け声は勇気や力を与えるが、ともすれば行き過ぎるのではとの懸念がある。「花見は自粛すべし」「不謹慎」。驚いたことに「孫氏が100億円寄付したのだから、他の社長もするべき」との投書まであった。寄付は誰かに強要されるものではないはずだ。公表して寄付する人もいれば、匿名でという人もいる。また、別の方法で支援を心がけている人もいるだろう。各人がそれぞれの考えで行動しているのであって、それを他人が非難、強要したり、同調圧力をかけるのはいかがなものか。

 被災者が大変な時に、楽しいことをするのは不謹慎かもしれない。しかし、互いに顔を見せあい、言葉を交わすことはとてもすてきなことだ。どんな時でも芸術文化に触れることは希望であり、何か大きな感動や力をいただく。人間は弱いものだが、何かのきっかけで、ものすごく強くもなりえる。また、その強さがどのような方向に発揮されるかも問題だ。

 他人の行動に圧力をかけることがないよう、何があっても自由の国、日本は健在でなくてはならない。そして、被害が少なかった者たちが真っ先に立ち上がり、前に向かって希望と共に普通の生活を心がけることが必要ではないか。そうして、日本経済を支え、被災者も支えることができるのではないだろうか。






(上毛新聞 2011年4月22日掲載)