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自然学舎「どんぐり亭」亭主  加藤 久雄(高崎市元島名町)



【略歴】新島学園高、同志社大文学部卒。高崎豊岡小教諭、樹木・環境ネットワーク協会員、グリーンセイバー・マスター。著書に『どんぐり亭物語』(海鳴社)。


優しさの循環



◎理屈でなく行動しよう



 昔、トルコの軍艦、エルトゥールル号の事件を知った時、深い感動に包まれて、涙がこぼれた。

 100年ほど前、和歌山県沖で、嵐のため座礁したトルコの軍艦の船員を、日本の貧しい村の人々は、嵐の中命がけで助け、体で暖め、最後の食料の鶏をつぶし、元気にしてトルコに帰した。

 そして、その85年後、イラン・イラク戦争で、フセイン大統領が「今から48時間後に、イランの上空を飛ぶすべての飛行機を撃ち落とす」と宣言。現地の日本人は大急ぎで空港へ。しかし、既に満席。215人の日本人が取り残された。危険すぎて、日本からの救援の飛行機も飛ばすことができなかった。時間が迫り、もうダメだと思った時、2機の飛行機が降りてくる。その飛行機は日本人をすべて乗せ、成田へ無事送り届けてくれた。トルコ航空の飛行機だった。これは日本政府も知らぬことだった。後日、トルコ大使館に尋ねると、「エルトゥールル号事件での日本人の優しさは教科書に載り、トルコ人なら誰でも知っています。今回は、100年前の恩返しなんです」と答えたという。

 そして、その5年後。今度はトルコに大地震が起こった。あの時助けてもらった215人の日本人は、日本中を駆け回り、義援金をかき集め、トルコに送り感謝された。僕の師は教えてくれた。「こういうのを循環無端(じゅんかんむたん)というんだよ」

 そして、循環無端には、正と負、両方の循環無端があることも。一度巡りだすと端がなくなり、抜け出られなくなるグルグル回り。今回の東日本大震災で、日本中が大変な悲しみ、苦しみに包まれている。トルコ政府は地震直後に支援を申し込んできてくれた。自分も被災したのに、みんなのために活動を続ける被災者の方々。遠くから現地に入り支援するボランティア。原発の「現場」で放射線の汚染と戦う人たち。

 怖い放射線も地球環境を循環してしまうかもしれない。しかし、人の優しさも良きグルグル回りを起こして世界を循環してくれると思う。それを自分から行動して作り出す。

 目の前で、おばあさんが転びそうになる。「あ、危ない。助けなくちゃ」と思ってから、手を出したのでは間に合わない。もちろんじっくり考えていたのでは、話にならない。その瞬間に体が動いていなければ、助けることはかなわない。それができるためには、人が常に良心と共に生きていることが必要だ。体は嘘をつけない。とっさの行動がその人の本心である。言葉はいくらでも飾れる。世の中で一番尊いのは、机上で素晴らしい理屈をこねる人ではなく、その場で「行動」する人だと思う。大人が「行動」で子供たちに明るい未来を示してやりたい。






(上毛新聞 2011年4月26日掲載)