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群馬大大学院工学研究科教授  鵜飼 恵三(桐生市相生町)



【略歴】宮崎県生まれ。東京工業大大学院修士課程修了。群馬大工学部建設工学科助教授などを経て1992年に同大教授。日本地すべり学会長。工学博士。


東日本大震災に思う



◎土砂災害は本県も注意



 4月1日から4日まで東日本大震災の被災地域を車で訪れた。筆者の専門である地震による土砂災害の被災個所を調査するのが主な目的であった。 帰路に三陸沿岸の津波災害地域へ足を延ばした。その被害は言葉に表せないほど悲惨なものであり、地上にあったすべてのものが津波でなぎ倒され、一面まっ平らになり、がれきの山であった。

 被災者の多くが未来への見通しを失い、途方にくれている。被災していない私たちの役割は、災害直後はもとより被災者が立ち直るまで支援を継続し続けることであると痛感した。

 津波被害の陰に隠れているが、地震による土砂災害も深刻なものであった。現在までに地震による土砂災害で30人近い犠牲者が出ている。

 福島県白河市葉ノ木平では、宅地の裏山が地震で崩壊し、13人が犠牲となった。地震地すべりでこのように多数の人が一度に亡くなる例は珍しい。 崩壊した土砂は、軽石を多く含む火山灰であり、地下水で湿潤した土砂が地震動により泥状化し、急速に斜面を下り住宅を襲ったものである。

 このような地震動により泥状化しやすい火山灰は群馬県でもよく見られる。これに加え、群馬県は面積の7割が山地であり、今回の地震で斜面の地盤が緩んだ可能性が大きい。梅雨や台風時の豪雨による崩壊の危険度が高まっているため、例年以上の注意が必要である。

 今なお収束の道筋が見えない原発問題は、人々の生活に加えて、産業にも深刻な影響を与えている。このような中、安全で安定した電力の供給を行うために、自然エネルギーの積極的な活用が求められてくるであろう。 群馬県は水力、太陽光、風力、地熱など自然エネルギーが豊富な環境にあるため、その先導的な役割を担うことができると考えられる。

 このうち、開拓が進んでいない地熱発電は特に有望である。火山周辺の地下1000メートル以深には高温の熱水が豊富に存在し、それを利用して発電をすることが世界的に行われている。

 日本でも東北や九州には多くの地熱発電所が稼働しているが、立地に制約があるため全国的な普及は進んでいない。火山の多い群馬県には多くの候補地が存在すると言われており、検討の余地は大きい。

 東日本大震災により、私たちは自然災害の危険性と自然エネルギーの重要性を強く認識させられた。それに対応して、人々の生活様式にも本質的な見直しが求められている。







(上毛新聞 2011年5月2日掲載)