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前・伊勢崎市赤堀歴史民俗資料館運営協議会長  大塚 富男(伊勢崎市下触町)



【略歴】新潟大大学院修士課程修了。地質調査会社勤務の後、1983年に学習塾開校。7年前、信州大で博士号(理学)取得。群馬大など3大学の非常勤講師。


災害と人類



◎苦難乗り越え文明築く



 東日本大震災が起きた。津波跡に向かって「おかあさーん」と泣きながら叫んでいる少女の姿が脳裏から離れない。被災された方々にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々に対し深くご冥福をお祈りしたい。

 世界の火山分布と地震の震源分布はほぼ一致している。それらは環太平洋、中国内陸部、ジャワ・スマトラ、インド北部、地中海、アフリカ大陸東部の諸地域である。これらの地域は昔から深刻な火山・地震災害を受けてきた。20世紀以降にこの地域で発生し、死者・行方不明者が5千人以上の地震災害だけを見ても30近くに及ぶ数が記録されている。最近では2004年にインド洋で発生したインドネシア―スマトラ沖地震と2010年のハイチの地震では22万人以上の犠牲者を出している。また、マグニチュード9・0以上の超巨大地震は今回の東日本大震災を含めて5回記録されているが、それらはすべて環太平洋地域で発生している。

 そして、このような災害多発地域は東京をはじめ、メキシコシティ、ロサンゼルス、マニラ、ジャカルタ、デリー、ローマ等世界有数の大都市を抱えている。本来、災害リスクの少ない安定大陸地域(例えば北アメリカ中西部や東部、オーストラリア等)に住んだ方が地震や火山災害を受けないということでは合理的と思われるが、実際は何らかの理由で災害が多発する変動帯に人は多くの文明を築いてきたとみることもできよう。この現実は人間がさまざまな災害を乗り越えてきた証しでもある。

 アフリカ大陸東部の大地溝帯は人類誕生の地で猿人・原人・新人を生み出した母なる大地である。そこはアフリカ大陸の中で最も地殻変動が激しい地域でもある。人類誕生の陰に地球のエネルギーを感じる。新潟平野の東縁部のツベタ遺跡では縄文時代中期以降(約5千年前~3千年前)に5回の土石流災害に繰り返し襲われながらも約2千年間も人が住み続けたことが分かっている。災害に遭遇してもなぜそこを離れなかったのか興味は尽きないが、歴史的に見ても、人間は大地の変動や災害と密接に関わりつつ命をつなげてきたことが分かる。先人たちのたくましさを感じる。

 今回の大震災は「未曽有」とか「想定外」という言葉が使われているが、人間の知恵をもってすれば、必ず復興は達成されよう。「現実と歴史」がこれを証明している。被災された方々には大変なご苦労が懸念されるが、復興に向けて頑張っていただきたい。多くの国民は被災者に笑顔が戻る時をいつまでも待っていることと思う。今後、世界に誇れる、また世界に役立つような災害に対する安全国土の構築を目指すのが日本に与えられた責務と考える。日本の進むべき一つの方向を見た気がする。







(上毛新聞 2011年5月3日掲載)