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新島学園短大准教授  亀井 聡(高崎市飯塚町)



【略歴】宮城県生まれ。県内の児童養護施設在職中に資生堂児童海外研修に参加し、豪州の児童虐待の取り組みを視察。その後駒沢大大学院を修了し、2006年から現職。


施設の子どもたち



◎家庭的雰囲気で支える



 このたびの東日本大震災で被災された方々に心からお見舞い申し上げます。

 震災や戦災の最大の犠牲者は子どもである。県内で最も歴史の古い児童養護施設は、明治時代の濃尾地震で親を失った子どもを救済するために創設された。

 そして大正時代の関東大震災、さらには第2次世界大戦によって親を失った子どもたちのため、児童養護施設が造られていった。社会的養護はその時代ごとに、子どもが困難な状況に陥ったとき、発達権を保障するため常に最前線で活動している施設である。

 社会的養護の特徴は、入所している18歳未満の子どもの生活を365日24時間、個々に保障することである。

 社会的養護で直接子どもの支援にかかわる職員は保育士、社会福祉士、児童指導員らであり、直接処遇職員と言われている。

 勤務形態には多少の違いがあるものの、子どもの起床から消灯まで、さらに日々宿直者をおいて長時間にわたり支援している。乳児院や重症心身障害児については24時間体制での支援となる。

 直接処遇職員が担当する子どもは、児童養護施設を例にとると、10人前後で、基本的には男女別で幼児から中高校生までである。なぜ異年齢集団にするかというと、子どもの権利条約に示されているように、家庭的養育環境を提供するためである。

 国連が子どもの権利条約を採択してから5年後の1994年を「国際家族年」と定め、そのスローガンを「家族からはじめる小さなデモクラシー」とした。

 それが、社会的養護における支援の理念の根底にあると私は考えている。そしてそれは、一人一人の子どもの存在を尊重した家族関係、すなわち民主的な家族関係である。

 この理念で児童養護施設での支援を考えるならば、子どもの入所理由が例え同じ身体的虐待であっても、それぞれ家族構成も違えば育ってきた環境も違う。一人一人の心の傷の深さや抱えている問題も異なる。直接処遇職員は子ども一人一人の健康管理、日常生活、学習指導、学校など関係機関との連絡調整、心のケアといった多岐にわたる支援を個別に行う。

 さらに家庭的雰囲気、すなわち子どもと直接処遇職員は民主的関係の中にあり、子ども一人一人を大切にし、かつ尊重したかかわりを日々行っている。

 東日本大震災の被災地で家庭を顧みず救済活動を行っている方々の中に、大船渡市や仙台市、気仙沼市、南相馬市、高萩市などにある社会的養護の関係者が大勢いることを忘れてはならないだろう。






(上毛新聞 2011年5月4日掲載)