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◎みんなでつくった舞台 日本とブラジルの子どもたちの出会いは少なかった。五嶋みどりさんのコンサート「トータル・エクスペリエンス」での発表を終えた後も、子どもたちは集まってきた。 毎回の練習を楽しみにして通ってくる姿を見て思った。この子どもたちを舞台に上げたい…。いつの間にか指導している私たちの気持ちが固まってくるのがわかった。子どもたちが主役になる、そんな題材はないかと探した。どこからか、オペラ『ヘンゼルとグレーテル』はどうだろうか? という声があがった。 初めは簡単な発表会形式で行う予定だった。まず、楽譜を作るところから取りかかった。ドイツ語の歌詞を日本語に、それも、わかりやすい言葉に翻訳していった。さらに振り付けもひとつひとつ考えていった。さて、次はオーケストラ。ピアノだけではちょっと寂しいと、フルートやオーボエ、クラリネット、トランペット、パーカッションと、協力してくださる方々にお願いしていった。 『ヘンゼルとグレーテル』のお話は何となく知っているが、オペラの中ではどんな役割なのか、説明した。ブラジルの子どもたちは、この説明ではわからないかもしれない。魔法にかけられているポーズをとることから始めてみた。みんなおもしろがって、思い思いのポーズをとりだした。子どもたちの表情が変わってきた。いつの間にか、笑顔になり、一緒に音楽を作っていった。 もっと、楽しい舞台にならないだろうか? 私たちの夢は、だんだん広がっていった。衣装はどうしようか? イメージのスケッチを描き、作ってくださりそうな方に相談、快く引き受けていただいた。子どもたちの衣装は、両国のお母さんたちが準備を始めた。 さらに進んで、幻想的な夢のシーンは、バレエで表現したいということになった。バレエの協力者も現れた。そのシーンを効果的に表現するためには、照明も必要ということになった。次は、照明か…。夢がふくらんでいく一方で、不安もふくらんでいく。でも、子どもたちの笑顔が、その不安を吹き飛ばした。やるしかない、一緒にがんばってみよう。 それからは、オペラに向かって一直線に進みだした。夏休みを使って、大泉町文化むらの駐車場で、みんなで大道具作りをした。日本人もブラジル人も、おとなも子どもも、炎天下の中、ペンキ塗りをした。文化むらの人たちも、積極的に加わってくれた。 2003年9月15日、幕は上がった。満席の観客の前で、子どもたちははじけるように歌った。そして、みんなでペンキを塗ったこの大きなお菓子の家は、堂々と舞台にその姿を現したのである。 (上毛新聞 2011年5月10日掲載) |