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和歌山地方気象台長  阿部 世史之(和歌山市)



【略歴】富山県八尾町(現・富山市)出身。気象大学校卒。仙台管区気象台予報課長、気象庁予報部予報官、前橋地方気象台長などを経て、今年4月から現職。


緊急地震速報



◎即座に身の安全確保を



 3月11日14時46分ごろ、前橋地方気象台の執務室で操作中だったパソコン画面に緊急地震速報が立ち上がり、鋭い警報音とともに三陸沖で大きな地震が発生して、あと数十秒で前橋市(昭和町の気象台)に強い揺れが到達する旨の報知が出ました。東日本大震災の発生でした。

 このとき、執務室と廊下をはさんだ会議室では気象庁本庁の予報担当者を講師に招いて予報技術指導が行われており、多くの職員が参加していました。そのドアを開けて、間もなく強い揺れが来ること、三陸沖で大きな地震が発生したことを短く告げ、自分も執務室の本棚から離れた場所に身をおきました。本棚は金具で壁に固定されているのですが、扉のガラスが割れたり書籍が飛び出したりする危険があったからです。

 間もなく気象台で震度4を観測する揺れが襲ってきました。気象台で職員、庁舎ともに被害は発生しませんでしたが、群馬県では桐生市元宿町で県内最大の震度6弱を観測し、館林市で1人が亡くなり、39人が負傷、住宅の半壊1棟、一部損壊1万5千棟余りなど、大きな被害が発生しました(4月21日現在、群馬県災害警戒本部まとめ)。

 緊急地震速報は、地震発生直後に震源近くでとらえた地震波(P波、初期微動)のデータから、気象庁で震源や地震の規模(マグニチュード)をただちに自動計算し、各地での強い揺れ(S波、主要動)の到達時刻や震度を予測して、可能な限り素早く知らせる地震動の予報・警報です。

 緊急地震速報は、テレビやラジオを視聴しているときに、報知音とともに放送されます。このほかに、携帯電話で知らせるサービスや、受信端末を設置した市町村や公共施設が放送する場合があります。

 3月11日の地震では、震源から気象台までの距離が400キロほどだったため、最初の緊急地震速報が流れてから強い揺れが到達するまで60秒ほどの時間がありました。しかし、3月12日3時59分ごろに発生した長野県北部の地震(中之条町小雨で震度5強を観測)など、震源が近い地震では緊急地震速報を見聞きしてから強い揺れが到達するまで、数秒しかありません。場合によっては、緊急地震速報が強い揺れに間に合わないこともあります。

 まだ余震が続いています。緊急地震速報を見聞きしたとき、家庭や職場では丈夫な机の下にもぐる、ガラス窓から離れる、大きな家具などがない部屋に避難する、屋外ではブロック塀の倒壊、看板や割れたガラスの落下に注意するなど、周囲の状況に応じてとっさに身の安全を確保しましょう。家屋の耐震化や家具類の固定などの備えも、普段から行っておきたいものです。






(上毛新聞 2011年5月17日掲載)