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ステージサービス群馬社長  添川 秀樹(前橋市富士見町石井)



【略歴】早稲田大社会科学部卒。日本ホールサービス取締役群馬支社長を経て現職。現在、社団法人企業メセナ群馬理事。群馬楽友協会理事(事務局長)。


自主文化事業(3)



◎プロの指導で意識変化



 芸術家が地域に滞在して文化活動を指導すると、住民の意識やアートの創造に、効果的なノウハウが蓄積されます。その好例を紹介しましょう。

 1996(平成8)年に新田町(現太田市)では町立文化会館エアリスの建設を機に町民ミュージカル公演を計画実施しました。

 住民参加の手作り事業は手間もお金もかかります。全国ツアーのために制作したプロ仕様とは経費的にも仕上がりの洗練度でも劣ってしまうのが実情です。

 事業は町民によるホールサポート組織づくりの第一歩として位置づけられ、町と会館運営の文化振興事業団が一体となって実行委員会を組織し、130名を超える住民と全国的に活躍するプロの指導者によって本公演を行いました。

 指導陣は脚本・演出の壌晴彦、作曲の深沢桂子、振付の鎌田真由美、音響の八幡康彦、美術の金井勇一郎の各氏。劇団四季等で活躍した現役の専門家でした。

 これらの専門家が新田町に集い、ミュージカルなどほとんど未経験な多くの住民参加者を、歌に踊りに振り付けに容赦なく厳しくトレーニングしました。住民参加者の中にはスタッフ(裏方)も多くいて、公演の10カ月ほど前から講座を設けて基礎から学び、舞台装置の製作や運用に従事しました。私は舞台監督助手として参加しました。

 キャスト(出演者)は、すべて町民です。私達裏方とは活動場所が同じ会館内でも若干異なります。制作部としては、出演者と裏方との意思疎通にも意を用い話し合いの場を設けました。その際、私はある出演者に『聞くところによると、トレーニングが相当厳しくて大変みたいですね』と問いましたところ、『初めはびっくりして何度か辞めようとも思いました。ところが、3カ月もして来ると、叱咤(しった)がないと練習している気がしなくなりました』との答えが返ってきました。

 ミュージカルの創造の場で、意識の高い専門家と素人との交流によって、どの様な変化が生じたのでしょうか。

 ここでの講師陣は、徹底的に観客を意識した指導を行いました。アマチュアであっても、自分のためだけでない、お客様の喜びを感じての演技を目指しました。参加者には、かなりの意識変化があったと思います。

 2日間2公演で2000人のお客様に喜んでいただけました。参加者は公演半年後にミュージカル劇団を設立し、町の息の長い協力のもと同じ指導陣で9年間活動し、国民文化祭にも参加しました。

 この事業を実施した会館では、その後に昨年までで15回となった大学ジャズフェスティバルの開催を引き継ぎ、自力で実施し2日間で約4000人の聴衆に楽しんでいただいています。






(上毛新聞 2011年5月22日掲載)