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医師  中嶋 靖児(前橋市広瀬町)



【略歴】福島県郡山市出身。群馬大医学部卒業後、国立病院など勤務を経て、現在は前橋広瀬川クリニック免疫治療部長、伊勢崎佐波医師会病院非常勤医師。


カルシウムの効用



◎食育は三度の食事から



 ダービーとは毎年イギリスで開催されるクラシック競馬のことです。それは3歳のサラブレッドで競われる馬の祭典です。国名を付けたダービーは世界各国で行われ、日本でも29日に日本ダービーが開催されます。

 ところで、ダービーで走るサラブレッドについて次のようなことが言われています。それは「日本ダービーの優勝馬であっても、イギリスのダービーでは勝てない」。真偽のほどはわかりませんが、イギリスのサラブレッドの方が日本のサラブレッドよりも速いというのです。

 日本のサラブレッドももとをたどればイギリスの馬です。選び抜かれた良い血統の馬を輸入する限り、差はないと思うのですが、なぜかこのようなうわさがささやかれています。そしてその原因は、馬が食べる牧草にあるというのです。

 実はイギリスの牧草には日本の牧草の何倍ものカルシウムが含まれているといいます。それを子馬のうちから食べさせるから、イギリスのサラブレットは速いのだというのです。

 日本は火山列島の島国です。イギリスも島国ですが、海が隆起してできた水成岩の大地です。英仏海峡の高い崖は「ドーバーの白い崖」として有名ですが、それは水成岩に含まれている石灰、すなわちカルシウムが表面に露出したものです。イギリスは石灰でできたカルシウムランドであったのです。

 日本人で唯一不足している栄養素はカルシウムです。先進国の間では日本人のカルシウム摂取量は最低です。それは日本の野菜のカルシウム含有量が他国と比較して少ないためといわれています。日本人のカルシウム不足は、火山国日本の宿命でもあるのです。

 その貴重なカルシウムをだめにしてしまう食品があります。子供たちが好んで食べるスナック菓子や清涼飲料水にはリンが多量に含まれているのですが、そのリンとカルシウムは化学的に結合して水に溶けないリン酸カルシウムになってしまいます。不溶性カルシウムでは体は利用できません。せっかく摂取したカルシウムは無駄になってしまいます。

 学校などでは、何か不満なことがあると我慢できずにすぐキレる子供がいて社会問題になっていますが、それはカルシウム不足が原因といわれています。実際にネズミで実験しますと、長い間カルシウム不足の餌で飼育されたネズミは凶暴になり、すぐにかみつくといいます。ところがカルシウムを十分に与えて飼育するとそうはならないというのです。

 毎日の食事では間食などをしないで、三度の食事をしっかりとると、サラブレッドのように美しくなるばかりか、速く走ることができ、その上、心のやさしい子供に育ちます。






(上毛新聞 2011年5月25日掲載)