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東洋大学国際観光学科教授  古屋 秀樹(茨城県古河市)



【略歴】埼玉県狭山市生まれ。東京工業大大学院修了。専門は観光交通計画、観光行動分析。筑波大講師などを経て、2008年から現職。赤城山振興有識者懇談会委員。


高齢社会の観光地整備



◎心遣いでおもてなしを



 近年、「バリアフリー観光」を耳にする機会がある。その内容であるが、例えば、岐阜県高山市では、首都圏等に居住する身障者のモニターツアーを企画し、来訪した人々によるさまざまな問題点、改善点の指摘を高齢者の住みよいまちづくりにつなげようと試みている。また、三重県伊勢志摩地域では、観光事業者、交通事業者が個々の施設整備に加えて、共同してシームレスな観光地づくりを目指した取り組みを行い、インターネット等による情報発信を行っている。

 高齢化率の一層の上昇という社会情勢と、観光需要を大きく左右する高齢者の行動という二つの側面で、各観光地は高齢者や身障者への対応を課題としている。

 宿泊・観光施設内のバリアフリー化に加え、道路、街路をはじめとするパブリックスペースの整備など、高齢者・身障者の観光地整備、観光サービスに対するニーズは数多いと考えられる。特定の利用者のバリアを除去するバリアフリーに加え、近年ではユニバーサルデザインの適用事例が多く見られる。

 誰もが利用しやすいデザインにするという概念のもと、段差をなくした歩道、横開きの自動ドア、駅の入口を示すアラームなどがあり、「特定のユーザーのために特別に考慮した設計」になっていないことから、利用者側にとっての「心のバリアフリー」にもつながっている。

 一方、自然観光地はそもそも立地が人里から離れるためアクセスが容易でないケースや、貴重な人文観光資源の保護のために観光地整備が困難なケースがある。バリアの排除といったユーザーサイドの要望と、それに見合った施設整備水準、資源保護とのバランスをいかに保つかが大きな課題といえる。

 それに対して、情報提供によって観光地の利便性向上を図る試みがある。例えば、無線によって情報を携帯端末に送り、利用者は必要事項を活用するもので、津和野町(島根県)、室戸市(高知県)では、観光情報やジオパークと呼ばれる地質遺産情報を配信し、観光客や外国人が利用している。音声情報もあるため、視覚障碍者にとっても利便性が高いという。

 このようなユニバーサルデザインの適用や携帯端末による支援は、高齢観光者にとってのサポートとなり、利便性の高い観光地へとつながる。

 だが、原始的であるが柔軟性の高い方策もすでにわれわれは保持している。「人によるサポート」である。ちょっとした心遣いで困った人を助けることができ、それがおもてなしともなる。一人一人の思いやりで、心に残る観光を実現できる。心がけ次第で、人が人をサポートする装置にも、観光資源にもなるといえよう。





(上毛新聞 2011年5月28日掲載)