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整理収納アドバイザー  山口 智子(前橋市上小出町)



【略歴】福岡県出身。本県で初めてNPO法人ハウスキーピング協会認定整理収納アドバイザー1級を取得。「お片付けスクールのシークエンス」を起業し、講座を開催。


「思い出」との別れ方



◎必要性を見つめ直して




 物が乱雑に詰め込まれた押し入れを目にし、片付けなければと思っていても、なかなか重い腰が上がらない。そんな方も多いのではないでしょうか。片付けの意欲の妨げになっている原因の一つに物を捨てられないということがあげられます。人は物を捨てることに抵抗を感じ、捨てなくてもよいと思うと気が楽になるものです。特に戦後、物がない時代を経験した方々は、経済成長と共に物を増やすことで心を満たしてきました。しかし、生活が豊かになり、物が増えすぎてしまった現在でも、その思いが変わることはないのです。

 日本の狭い住宅事情の中で多くの物と共存し続けています。よって、物が増える捨てられない片付かない、という悪循環を招いているのです。では、なぜ多くの人は物を捨てられないのでしょうか。それは、物にはストーリーがあり、価格以上の思いが詰まっているからなのです。

 例えば、お人形やぬいぐるみはどうでしょう。使わなくなったからといって、ごみ箱にポイッと捨てられる人は少ないと思います。私自身、息子が赤ちゃんのころに使っていたぬいぐるみを長い間捨てられずに持っていました。もう遊ぶことも飾ることもなくなり、シミで汚れているのに、捨てられなかったのです。理由は、思い出がたくさん詰まっているからというのはもちろんのこと、人形やぬいぐるみのように顔があるものは、どうしても生命を感じてしまい、処分するには抵抗があるからです。

 神社で供養という方法もありますが、雛人形などの高価な物と違い、ぬいぐるみ一つを神社に持っていく人は少ないと思います。結果、たまってしまうというわけです。その捨てられなかったぬいぐるみは後日、テレビの情報をもとに『今までありがとう』とお礼を言ってごみに出しました。すると、空間がスッキリしたばかりか、意外に心までスッキリしました。このように、ほとんどの物には『思い出が詰まっているから』『大切な人からのプレゼントだから』など、本人にしか分からないストーリーがついています。

 だからといって、いつまでも処分しないと部屋の中は物であふれてしまいます。古い物は再利用してこそ、素敵な存在感を生むのです。長い間押し入れの奥深くにホコリをかぶってしまっているだけならば、ごみと言ってよいでしょう。過去でも未来でもなく、現在の自分に本当に必要な物かどうか、見つめ直してみませんか。そして処分する決心がついた物には、今まで活躍してくれたことへ感謝の意を表し、お別れしてみてはいかがでしょう。忘れたくない物は、写真に収めて。新たに空いたスペースには、きっと新しい知識が吹き込まれ、心のゆとりも見えてくることでしょう。






(上毛新聞 2011年6月2日掲載)