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◎どんな音楽生まれるか ワールドミュージックの評論家である僕は、例年ならこの時期は夏に行う海外取材のために飛行機を予約し、その国の音楽祭の事務局にプレス申請し、取材するアーティストたちに事前連絡するなど、気持ちが海外に向いている。しかし、今年は日本にとどまり、ここで奏でられる音楽を聴くことにした。 例えば、7月下旬に苗場スキー場で行われる日本最大の「フジロック・フェスティバル」には例年になく英米以外の国の音楽家が多数出演する。音楽を通じて反グローバリズムを唱え、世界中の少数民族を支援してきたスペイン系フランス人マヌ・チャオ。中世からサハラ砂漠で交易を続けながらも、20世紀のアフリカ諸国の独立で引かれた国境線により文化を分断されてしまった遊牧民トゥアレグ族の楽団ティナリウェン。激しいパンクロックとインドの民謡のリズムをミックスし、日本でも絶大な人気を誇る在英インド系移民バンド、エイジアン・ダブ・ファウンデーション。 8月上旬には富山県南栃市で20年以上も続く地元主導の音楽祭「スキヤキ・ミーツ・ザ・ワールド」を訪れるつもりだ。そこでは在仏アルジェリア系移民歌手アマジーグ・カデブが「中東民主化運動における音楽」をテーマにシンポジウムを開催する。放射線被害を恐れ、来日を中止する音楽家が多い中、あえて今、日本に来ようとする彼らの声に耳を傾けなくてどうする。 被災地の福島でも動きがある。8月15日には福島市にて地元出身の音楽家・遠藤ミチロウや大友良英、詩人の和合亮一らが主催する芸術祭「FUKUSHIMA!」が行われる。福島第1原発から30キロ圏内にある双葉郡の自給自足集落・獏原人村でも毎年恒例の芸術祭「満月祭」が規模を縮小して開催される予定だ。 古くはブルースやタンゴ、ジャズやサンバ、近年でもレゲエやヒップホップ、テクノなど、人々の心や精神をリアルに表現する魅力的な音楽の多くは日のあたる場所ではなく、スラムやゲットー、深夜の盛り場や地下集会など、いわば「危険な場所」で生まれてきた。僕は物心付いたころから、そうした音楽ばかりに惹ひかれてきて、そしてモロッコやトルコやインドなどを訪れ、音楽家と対話し、音楽の生まれる現場を直に取材してきた。半面、ぬるま湯に浸ったような多くの日本のポップ音楽にはずっと興味を持てずにいた。 しかし、3基の原発のメルトダウンが明らかになり、世界中の国から渡航注意喚起が出されている今、この日本こそ次に魅力的な音楽が生まれる最前線の場所ではないだろうか。この夏、僕は日本にとどまり、音楽家たちが何にコミットするのか、どんな音楽が奏でられるのかしっかりと見届けたい。 (上毛新聞 2011年6月9日掲載) |