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自然学舎「どんぐり亭」亭主  加藤 久雄(高崎市元島名町)



【略歴】新島学園高、同志社大文学部卒。高崎豊岡小教諭、樹木・環境ネットワーク協会員、グリーンセイバー・マスター。著書に『どんぐり亭物語』(海鳴社)。


甘やかされる子供たち



◎心も体も動きを止める




 出典がはっきりしないのだが、こんな話を聞いたことがある。「むごい教育」という話だ。

 江戸幕府を開いた徳川家康は、幼少のころ、今川義元の人質となっていた。将来今川の大きな壁となりうる家康(竹千代)の世話をすることになった家来に、義元は命令した。「竹千代にむごい教育を施せ」。すると家来は、「むごい教育とはどのようなものでしょうか」と聞いた。義元が言う。「朝から晩までうまいものを食べさせよ。冬は、寒くなくなるまで暖めてやれ。夏は暑くないように涼しくしてやれ。辛いことがないように、それはそれは大切にしてやれ」。驚いた家来が義元に問う。「殿、それがどうしてむごい教育なのでしょうか」。すると義元は、言った。「そうすれば、大抵のやつはだめになる」

 子供が人らしく育つためには、母性と父性が必要だ。必ずしも母性が母親で、父性が父親というわけでもない。一人の親の中にも母性と父性がある。

 母性とは、すべてを許し包み込む力だ。例えば、「約束を守らないなら、テレビゲームを捨てちゃうよ」と言って、そっと押し入れに隠しておくのが、母性。父性なら、有無を言わさず、言葉通り、本当に捨ててしまう。切り捨てる力だ。優しさと厳しさ、その二つのバランスで、人は心を磨きながら大人になっていく。

 今、教育は母性に大きく傾き、子供たちの心のバランスが崩れているような気がする。それは、年々顕著になっているように感じる。

 それは、「面倒くさい」という言葉に象徴される。本来、子供はどんな場面でも、退屈を遊びに変えてしまう不思議な才能を持っている。子供は大人と違って、いつも今を楽しんでいる存在だ。だから、どんな事も学び、吸収できるのだ。しかし、それがあまりに物や環境に恵まれ過ぎ、甘やかされ過ぎ、面倒くさいといって、心も体も動かなくなってしまっている。生きる喜びを感じられなくなってしまっている。それは、日本中の多くの子供たちに見られる傾向である。

 子育ての場面で、父性を使い、逆境にある子供をそっと見守るのは、本当に難しい。これだけ、物や情報があふれている世の中でそれをやるのは、至難の業だ。何でも手を貸し、助けてやる方がよっぽど簡単だ。

 しかし、もう一度、自分たちの生活の中で、何が本物で何が偽物か、考えてみたい。大人も子供も優しさと厳しさのバランスの中で、一日一日を縁あって出会った人たちと丁寧に生きていけたらいいと思う。

 日々命がけで時代を切り開いた家康や義元、多くの先人たちは今の日本をどんな気持ちで見つめているのだろうかと時々思う。







(上毛新聞 2011年6月14日掲載)