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別府大文学部教授  丑木 幸男(大分県別府市)



【略歴】県文化財保護課、県史編さん室から武尊、渋川女子、中央各高校教諭を務めた後、国文学研究資料館史料館長、アーカイブズ研究系研究主幹などを歴任。



公文書管理法



◎民主主義を支える役割




 2009年7月に公文書管理法が成立し、今年4月に施行された。群馬県出身の福田康夫元首相の強いリーダーシップによって生まれた。わが国のアーカイブズにとって画期的な法律である。

 それまでは1987年に制定されたわずか七条の公文書館法が、「歴史資料として重要な公文書等」の保存・利用を規定してきた。同法は文書館専門職員を、養成制度未確立を理由として置かないことができると規定し、アーキビスト制度が確立しないなど、不備が大きかった。

 これに対して公文書管理法は、公文書を「健全な民主主義の根幹を支える」と、行政を適正・効率的に運営するとともに、行政活動の説明責任を果たす証拠書類として位置付けた。歴史資料という過去の問題ではなく、民主主義実現という、いまの課題を解決するために重要としたのである。

 そのために行政の意思決定に公文書を作成し、適正に整理・保存し、国民に公開することを義務づけた。大分県では教員採用をめぐって不当に不合格とした証拠書類を廃棄して、その損害賠償訴訟がいまだに決着していない。沖縄返還密約や年金記録問題など、ずさんな公文書管理が相次いで発覚したが、公文書は役所の私有物ではなく、国民共有の知的資源として管理されることになる。一定期間を過ぎると廃棄か公文書館で保存かを決定し、それも公務員が勝手に判断するのではなく、総理大臣の許可が必要となる。

 国際的に大きく立ち遅れているわが国のアーカイブズ保存体制を前進させることが期待されている。

 しかし、公文書管理法にも課題がある。一つは地方公共団体の公文書については、地方自治の建て前から「この法律の趣旨に則って努力することを期待する」と規定しただけである。文書館を設置していない県が18もあり、その設置が望まれる。特に公文書保存が危惧されているのは市町村である。明治・昭和と過去二度の合併の結果、市町村の公文書は壊滅状態になり、合併後の公文書保存が大きな課題になっている。平成の大合併により三度もおなじあやまちを繰り返しては、未来の国民に弁明できない。財政状況が厳しい地方自治体だけに、待っているだけでは実現できない。それぞれの地域で公文書保存の声を高く上げることにより、立派な法律の趣旨を活かすことができよう。

 二つ目の問題は、アーキビスト養成を規定しなかったことだ。民主主義実現に重要な役割を果たすと位置付けた、公文書の保存・活用を担当する専門職員のアーキビストを、どのように養成し、資格付与し、採用するのかが、決まっていない。私は国家資格ではなく、民間での資格付与を検討すべきだと思う。










(上毛新聞 2011年6月25日掲載)