視点 オピニオン21
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スポーツコーディネーター  藤口 光紀(東京都大田区)



【略歴】旧粕川村出身。慶応大学卒。サッカー日本代表、浦和レッズ社長を経て、現在広島経済大学教授、日本サッカー協会・Jリーグ参与、新島学園短期大学客員教授。


ブランクの効用



◎自分を客観的に眺める




 最も歴史のあるテニスの国際大会「ウィンブルドン」。ラファエル・ナダル(スペイン)が全仏オープンに引き続いて栄冠を勝ち取るのか、ロジャー・フェデラー(スイス)の復活があるのか、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)が初の王者になるのか、非常に楽しみである。この3人に地元イギリスのアンディ・マレーを加えたトップ4の中から優勝者が出る可能性は高いものと思う。注目してみてほしい。

 女子はどうかというと、圧倒的な強さを持った選手が不在なだけに、だれにでもチャンスがあると言える。

 先に行われた全仏オープンでは、中国の李娜(リーナ)が優勝し、アジア勢として4大国際大会シングルス初制覇の快挙を成し遂げた。第6シードの李娜は決勝で第5シードのイタリアのフランチェスカ・スキアボーネをストレートで下し栄冠を勝ち取った。

 李娜は実は2002、2003年と2年間、テニス界から離れている。2年後の04年に復帰。06年のウィンブルドンでベスト8、10年には世界ランクトップ10入りと、着実に力をつけてきて、ついに全仏オープンで頂点に立った。

 世界ランク100位に入れなかった選手が、2年間のブランクを経た後にジャンプアップして、世界のトップの仲間入りを果たした。テニス界を離れた2年間の経験が、李娜をプレーヤーとして、一人の人間として成長させたことは間違いないであろう。

 このような現象はスポーツ界ではしばしばみられる。一度引退を宣言して現役を退いたが、しばらくして現役復帰。そして、世界の頂点に立ったプレーヤー。環境が異なるかもしれないが、大けがをして長期離脱を余儀なくさせられたが、懸命なリハビリの末に復帰し、ひと回り成長したプレーをする選手がいることは事実である。けがをする前より、精神的にたくましく、うまくなっている選手は多い。

 この現象はメンタル面での変化がその要因であろう。現場を一時離れることで、物事や自分を客観的に見ることができ、周囲を見渡せる余裕が生まれ、プレーに幅ができることによるものと思う。

 何事も脇目も振らず、一心不乱に突き進むことも必要であるが、時々宇宙から地球を見るように、客観的に自分自身を見ることができれば、さらなる成長につながるものと思う。

 全仏オープン優勝後の記者会見で言った李娜の一言は「夢はかなう」。努力して結果を出した人だから言える言葉である。そろそろ日本人選手の一言を聞いてみたいものである。








(上毛新聞 2011年6月26日掲載)