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わたらせフィルムコミッション(WFC)代表  長谷川 博紀(桐生市東)



【略歴】三重県出身。1998年に森秀織物入社。現在、同社社長。元桐生青年会議所理事長。2010年4月からWFC代表として映像作品製作の支援活動に取り組む。


地域産業と日本人



◎地道に技術守って活用




 桐生は日本の機どころ。これは上毛かるたで皆さんご存じだと思います。そもそも織物とは何でしょうか? 日本の産業を支えてきたと教科書で習った覚えがある程度でしょうか。職業などで携わっていない方にとっては縁遠いことでしょうか。日本人にとって大事な産業ですよ、少しでも意識してくださいとお願いしたいです。

 織物をただの産業として、将来性がないと片づけてしまうのでしょうか。それとも歴史を刻んできた着物や和服などの日本文化として生き残る道を見つけるべきでしょうか。1000年も1500年も日本の産業基盤を支えてきた織物を、将来性のない産業と片づけてしまって大丈夫でしょうか。

 現代でも日本のハイテク技術・企業が世界を独占できた時代が一瞬にして変わり、グローバル化した世界市場で揺るぎない地位を確立できた日本企業は本当に一握りとなりました。

 これからわれわれ日本人に残された選択肢として、金融ゲームや投機マネーに踊らされない産業構造を選んでいくべきでしょう。地域に残された技術を地道に継承していき、それらを活用する手立てを講じていきたいのです。

 衣食住が生活に密着した必要不可欠なものであることは誰でも分かっています。それに関わる産業が短絡的に将来性のないものだとして切り捨てられたら、われわれは将来どうやって自活していくのでしょうか。ハイテク産業などで、輸出して得た利益で外国から物を安く買えば良かった時代は崩壊しつつあり、一部の原材料や食料は安く自由に輸入するのが困難になりつつあります。

 経済的に優位に立てない国・地域は自活していく決断が必要になります。TPP(環太平洋連携協定)も一つの政治決断ですが、守るべき最低限の技術基盤・生産背景を失うと地域の未来は見えてきません。保護貿易ではありません。まず消費者が地域の特色を守っていこうとする意識です。

 鎖国などという非現実的なことは現在の世界ではできるはずもありません。利益性の薄い古い物は切り捨て、無差別に競争原理だけで判断していけば、どのようなリスクを負うのかをもう一度考える必要があります。

 自由貿易をうたっていながら自国の守るべき産業・農業はしっかりと確保している国があります。国や地域が生き残る術で、ごく当然のことだと言えます。

 大事なのは、一時期の利益でも、短期的な将来性でもないはずです。市民・国民が生活するためには、産業・農業・工業をバランス良く保全しなければならないのです。そういった営みを地域で賄っていけば、安心して暮らしていける生活の場になるはずです。







(上毛新聞 2011年7月1日掲載)