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ミーティングポイント・ドゥープラス代表  長ケ部 さつき(大泉町北小泉)



【略歴】武蔵野音楽大ピアノ科卒。自宅でピアノ教室を開く傍ら、2001年に音楽を通じた地域交流を図ろうと「ミーティングポイント・ドゥープラス」を設立。



歌で日本語を覚える



◎四季や伝統行事も理解




 この言葉を英語に置き換えると、何て言えばいいのだろうか―と、私たちは考えてしまう。でも、ホワイト、ブラックと、たくさんの英語の単語は、いつの間にか日本語に仲間入りしている。ポルトガル語だって「おんぶ」や「パラソル」「コップ」など、日本語化しているものがたくさんある。日本語だって逆のことがあるのではないか? そんなことから「歌で日本語を覚える」ということを思いついた。

 『チューリップ』の歌には「赤・白・黄色」の「花」、『ぞうさん』には長い「鼻」、『うみ』には「広い」と「大きい」。探してみると、どんどん単語が浮かんできた。この言葉を歌でダイレクトに覚えていけば分かるようになると思い、童謡や唱歌から30曲を選んで、教材を作成してみようと思った。ブラジルで歌われているポルトガル語の歌も取り入れた。日本とブラジルの両国で、同じメロディーで歌われている曲も探してみた。

 この曲を使って、ブラジルの子どもたちに教えてみた。子どもたちは、どんどん日本語を吸収していった。元気に歌っているけれども、本当に理解しているのだろうか? 心配になったので、絵を描いてもらった。絵を見て驚いた。子どもたちは歌詞の意味を理解している。そして、絵に表現されている国民性の違いを感じ、思わずほほ笑んでしまった。日本人の子どもが描かないような動物や木…明るくて自由な絵が集まってきた。日本の子どもたちにも、ブラジルの歌を聴いてもらい、歌詞の内容を教え、絵を描いてもらった。子どもたちは、想像力をはたらかせてたくさんの絵を描いてくれた。

 言葉の意味だけではない。日本の伝統的な行事や風習、四季の移り変わりも理解してもらおうと思った。「ひなまつり」「こいのぼり」「たなばた」「紅葉」…。説明すると、何となく知っているようだった。描いた絵は、どれも楽しい。富士山を描いた絵の空の色は、オレンジがかったピンク色。紅葉の絵は、葉っぱは描かずに、木が断層のようになって色が変化している。

 だが、「さくら」の花で悩んでしまった。子どもたちは、絵筆やクレヨンを持って考え込んでいる。写真を見せたが、やはり筆は進まない。この子どもたちは「花見」をしたことがないことに気づいた。数日後、みんなで城之内公園に出かけた。公園の桜は満開だった。風に舞う桜の花びらを、子どもたちは追いかけて走り回った。

 もう一度絵を描いてもらった。子どもたちの絵は、どれも桜の花びらが楽しく舞い踊っていた。描いている子どもたちの表情は、公園で遊んでいた時と同じく、きらきら輝いていた。教室の中は満開の桜に包まれた。






(上毛新聞 2011年7月5日掲載)