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古書店経営  樋田 行夫(前橋市岩神町)



【略歴】前橋高、法政大学法学部卒。東京・高円寺都丸書店にて古本屋修業。帰橋後、実家の大成堂書店で群馬の古本屋を学ぶ。1977年、大閑堂書店開業。



古本即売会



◎無駄でない知的遊び心




 「古本屋じろりと見られじろりと見」という戯(ざ)れ歌がある。古本屋はいささか敷居が高く思われている。そこには、どんな本があるのか、それのごくごく一端をのぞいてみる。

 戦後復興と災害復興とが錯綜(さくそう)していた1961年に(1)出版によって郷土への理解を深める(2)研究者の成果発表の機会を与える(3)会員制(4)県の補助と便宜を仰ぎ全県的な文化運動とする-この四つを掲げて創設されてから今年で50年を迎え、郷土群馬の図書刊行200巻を越す「みやま文庫」が堂々と座を占めている。

 53年に「世界最高・最大のミステリー・シリーズ」として誕生した翻訳ミステリー専門叢書ハヤカワ・ポケット・ミステリがある。アメリカナイズされた表紙絵は勝呂忠(洋画家・京都産業大学名誉教授)が手掛けた。 「われの生涯(らいふ)を釣ろうと」白く流れたる「廣瀬川に糸をたれた」萩原朔太郎。詩的アナキズムを追求しつつ『もうろくづきん』を発表する萩原恭次郎。「きみはきかないか 万物が声をひそめて祈っているのを  どこかに非常にいい国があるのをかんじているのだ!」と浪漫精神にあふれた高橋元吉。相変わらずおしゃれな装いの澁澤龍彦。虚空を見つめて動かない埴谷雄高。

 奈良・平安・鎌倉時代の服装・建物・食物・武具・調度・商いの様子を絵で詳細に伝えてくれる歴史民俗資料として楽しめる日本の絵巻。書道史上の名品を体系的に網羅している逸品『書跡名品叢刊』。今もなお、未完の革命を嘆いているであろう北一輝の「謎に包まれた古典」と言われる『日本改造法案大綱』を収録している著作集。47年~53年まで75冊の映画雑誌『映画の友』の中では往年のスターが健在である。東洋的な寂(さび)のある愛しさを秘めているシダについての数々の著作。生命力が溢れているオノサト・トシノブのシルクスクリーン。種々の技法を用いて銅版画で自己表現に没頭する『加納光於作品集』等々さまざまな分野に及び、枚挙に暇がない。

 古本市(即売会)はこのような店が一堂に会して開かれる。気楽に来場し、いろいろな時代の各種さまざまな分野の印刷物に触れて、知的な遊び心を大いに羽ばたかせる時をもつのは無駄なことではないはずだ。

 世界各地の音楽が民族音楽の括(くく)りを超えて融合するワールドミュージックという音楽。その自由さは今後大いに広がる力を持つことを、トルコ音楽やロマ(ジプシー)音楽を奏でるヴァイオリンとフラメンコの香りがするギターとのセッションを鑑賞して実感した。その後で、ワールドミュージックについて述べている『楽園の音楽』なる本を会場で見つけた時は密やかに喝采した。古本即売会の敷居は低い。







(上毛新聞 2011年7月7日掲載)