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座繰り糸作家  東 宣江(安中市鷺宮)



【略歴】和歌山県出身。嵯峨美術短期大学テキスタイル(京都)卒。2002年来県。碓氷製糸農業協同組合(安中)で座繰りを学ぶ。07年から養蚕も行っている。


持続するために



◎手探りでチャレンジ




 春繭が各地域から集められ、製糸工場が活気づく季節となった。当工房でも、これから、春繭の生糸つくりが始まる。私の仕事は、上州座繰り器を使ってオーダーメードの生糸をつくることだ。できた生糸は、染織を愛好される方のもとで、国産の織物となる。

 私は、こうした仕事がしたくて、県外から移住した。群馬県に来るにあたっては、碓氷製糸農業協同組合が受け入れてくださった。それから数えると、9年になる。細々ではあるが、我ながら、よく続いていると思う。先日、国際的に活躍している若いピアニストが、ラジオで今後の抱負について質問を受けた際に、これからもピアノを楽しく弾き続けることができるかが、何よりも課題だと話していた。幾つも賞をとり評価されている人物でも、そのように考えるのかと驚き、共感した。

 好きなことでも、時には、それだけとはいかないことがある。また、予期せぬことで足が止まることもある。そんな時、その後も続けるかどうかというのは、事例は違っても誰もが突き当たることなのかもしれない。止めることはいつでもできる。だから、続けてみようと思うが、続けるということは、エネルギーのいることだ。というのも、私自身がこれまで幾度か、そのことを考えてきたからだ。それでも今まで続けて来たのは、何があっても、とりあえず10年は続けてみようと思っていたからだ。そのきっかけは、私が上州座繰りの現場を見に、初めて群馬県を訪れた10年ほど前の話になる。赤城山麓の村で、その時にお会いしたおばあさんが「座繰りは、10年は続けないと解(わか)らない」と言ったのだ。もうすぐその10年を迎える。そろそろ解ってきたかというと、まだ奥は深い。おばあさんが「10年は」と言ったのは、せめてそれくらいは続けないと何も見えては来ないということだと思っている。

 その言葉とともに、必要なのはチャレンジだ。自分の活動は、いつも手探りのため、飽きが来ない。今、一番労力を注いでいるのは養蚕だ。繭の生産をお願いしていた農家の方が引退されたことが機会となった。座繰りを続けるにあたり、自分でも繭を生産できないと、将来困るかもしれないと思ったのだ。今年で養蚕は4年目だ。座繰りだけでも今まで時間が掛かっているのに、大変なことに手を出してしまったと思ったこともあるが、養蚕から手がけていることは、今では、当工房の特徴となった。

 県のオリジナル品種など特殊な蚕をこれまで幾つか飼育した。そこから始めると、それまで気づかなかった品種の性質がだんだんと見えてくる。すると、つくる生糸もそれに応じて変わった。続けただけ積み重なってきたものはある。それを大事に育てていきたい。






(上毛新聞 2011年7月8日掲載)