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なかや旅館社長  阿部 剛(みなかみ町湯桧曽)



【略歴】沼田高、新潟大経済学部卒。1994年に実家のなかや旅館に入り、98年から現職。著書に『1日10分!「おもてなし」ミーティングがあなたのチームを強くする』。


ノー挨拶デー



◎大切さを実感する一日




 少し前、東日本大震災の影響でテレビから頻繁に放送され、特に若い人たちの間で話題になったCMがありました。それは独特のキャラクター「おはようなぎ(おはよう+うなぎの造語)」「ありがとうさぎ(ありがとう+うさぎ)」などが登場し、挨拶(あいさつ)の大切さを啓蒙(けいもう)するコマーシャルです。記憶に残っている方もいらっしゃることでしょう。

 実は、当なかや旅館には、2カ月に1回、「ノー挨拶デー」という日があります。その日一日だけスタッフは、「おはようございます」も「お疲れさまでした」も、口にすることを固く禁じられるのです(さすがに、旅館にお泊まりのお客さまには、普段通りに挨拶を行いますが)。

 これにはある明確な意図があります。それは「毎日何げなく交わしている挨拶の大切さと、その意味をあらためて考える」という目的です。

 「挨拶禁止」のその日、スタッフは全員、本当に何とも言えない居心地の悪さとともに業務を始めます。そして、業務が終わり、帰宅するその時もまた、とても気まずそうな表情で姿を消していきます。挨拶のない日に感じる感覚は、たまらない心地悪さです。

 普段、何げなく交わしている挨拶が、いかに意味を持っていることなのか。強制的な禁止ですが、“挨拶のない世界”を体験してみると、その意味や大切さが本当に実感できます。普段、当たり前にあるものは、なくなってみて初めて、その意味や価値を実感するということなのでしょう。

 しかし実をいうと、私自身が子どものころ、自分の家庭では、十分な挨拶など交わされていなかったように記憶しています。特に「おはよう(ございます)」の挨拶は、親子間で、ほとんどなかったかもしれません。そして、そんな「挨拶の少ない私の家庭」には、親子の人間関係で難しい問題が、少なからず存在していたような記憶が残っています。

 今では、私と父や母との間でも、普通に挨拶を交わしています。それは、私自身が遅ればせながらも、人間として進歩できた「成長の果実」なのかもしれません。そんな今、私と両親との関係は、実に気持ちのいいものになっています。

 このように考えると、家族でも職場でも、気持ちのいい挨拶と人間関係の良しあしは、密接に繋つながっているように思えます。そして、良い人間関係は、気持ちのいいおもてなしのスタートなのでしょう。

 なぜ、それほどまでに挨拶が大切なのでしょうか? 挨拶がないと、居心地が悪く感じるのはなぜなのでしょうか? 私なりの答えは、次回のコラムでお届けしたいと思いますが、皆さんも試しに「挨拶のない世界」を体感してみてはいかがでしょう。







(上毛新聞 2011年7月10日掲載)