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和歌山地方気象台長  阿部 世史之(和歌山市)



【略歴】富山県八尾町(現・富山市)出身。気象大学校卒。仙台管区気象台予報課長、気象庁予報部予報官、前橋地方気象台長などを経て、今年4月から現職。



数値計算による予報



◎災害から命を守る基盤




 気象台が発表する大雨などの警報・注意報、毎日の天気予報や週間天気予報、台風予報などは、気象庁のスーパーコンピューターが気象状況の時間変化を物理法則に基づいて計算し、将来を予測する「数値予報」を根幹にしています。

 数値予報では、地球大気を水平と鉛直の方向に規則正しく並んだ格子で区切り、世界中のさまざまな場所・方法で観測され品質検査を経たデータなどを使って、すべての格子点で、ある時刻での気象状況を表す風、気温、気圧などの値を求めます。これをもとに、数十秒先から数百秒先の予測を繰り返して、将来の気象状況の推移を計算します。この計算に用いるプログラムを「数値予報モデル」と呼び、大気の流れ(風)をはじめ、陸地が太陽で暖められること、大気が海洋から水蒸気を受けること、水蒸気が凝結して雨が降ることなど、大気と海洋、陸地の間で発生する自然現象が組み込まれています。

 気象庁は1959年に数値予報業務を開始して以来、気象学の研究成果に基づく新しい計算手法の開発と実用化、新しい観測データの利用、コンピューターの技術革新などによって、数値予報の精度向上と期間延長を図ってきました。

 この結果、天気予報の精度向上のほか、降水確率予報、天気分布予報・地域時系列予報、台風5日進路予報など、時代の要請に応じた予報の高度化が実現でき、災害から命を守る警報・注意報を昨年5月27日から市町村単位で発表することにつながりました。警戒・注意を要する期間や、大雨警報で特に警戒を要する災害名(土砂災害、浸水害)も明示しています。パソコンも普及していなかった1980年ごろの予報官が夢見た予報警報の技術が、すっかり現実のものになりました。

 ところで、数値予報モデルで予測できる気象現象の広がりは、格子間隔の大きさに依存します。このため、群馬県を北部と南部に分けた天気予報には主に水平方向の格子間隔が約20キロメートルの「全球モデル(地球全体を最長216時間先まで予測)」、市町村単位で発表する警報・注意報には格子間隔が約5キロメートルの「メソモデル(日本周辺を最長33時間先まで予測)」の結果も併用します。格子間隔が小さいほど地形を詳しく表現することができるので、気象庁は地形の影響を受ける局地的大雨の予測精度を上げるため、水平格子間隔が約2キロメートルの「局地モデル」の開発を進めています。

 気象台では数値予報の結果を基盤に、県の地形や気象特性、調査研究で得られた成果、実際の現象の推移などを考慮しながら、警報・注意報や天気予報の的確な発表に努めています。数年後はどのように進化しているでしょうか、期待してください。






(上毛新聞 2011年7月14日掲載)