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大妻女子大教授  干川 剛史(神奈川県相模原市)



【略歴】前橋市生まれ。慶応大大学院修了。阪神・淡路大震災から情報ボランティアを実践する。徳島大助教授を経て、現在、大妻女子大教授、日本災害情報学会理事。


新燃岳の火山灰



◎被災地復興へ活用を




 読者の記憶から薄れつつあると思うが、今年1月19日に霧島連山の新燃岳が噴火を始め、同月27日には52年ぶりに爆発的噴火を起こし、噴出した火山灰などの量は、推計4千万~8千万トンとされている。

 麓の都城市や高原町などでは、断続的に降り注ぐ大量の火山灰の除去作業に追われ、自宅の屋根に上って作業をしていた高齢者が屋根から滑り落ちて重軽傷を負うという事故が多発。宮崎県新燃岳火山災害対策本部の発表によれば、6月29日現在で重傷者23名・軽傷者19名であり、また噴石による自動車や家屋の被害は730件に及んでいる。

 現在、霧島山麓の宮崎県高原町では、新燃岳から噴出した火山灰を利用して、食肉(鶏・豚・イノシシ・シカ)や野菜の「灰干し」づくりの取り組みが盛んに行われている。

 灰干しとは、肉・魚介類・野菜などの食材を、火山灰と直接触れないように布と透水性のセロハンに包み、火山灰で上下からサンドイッチ状に挟んで冷蔵庫で乾燥熟成させた高級干物。食材の臭みが取れ、味が濃縮されておいしくなる。

 その作り方は「灰干しプロジェクト」(http‥//www.haiboshi.jp/)に掲載されているが、これを高原町の人たちに紹介したのは、三宅島の復興支援活動としてこのプロジェクトに取り組んできた筆者である。

 その経緯は…。筆者はまず2月5日から9日にわたって、都城市・高原町・宮崎市の市役所・町役場・県庁と災害ボランティアセンターを訪れ、現地調査を行いながら、これまでの災害での支援活動経験に基づく支援の申し出を行った。

 高原町役場の了承を得て、灰干し試作用に「霧島美化センター」に集積されていた火山灰数十キログラムを提供していただき、この火山灰を石川県内で灰干しづくりに取り組んでいる仲間に宅配便で送り、鶏肉の灰干しを試作してもらった。

 さらに、3月20日~24日に現地を訪れ、高原町で支援活動をしていた災害ボランティアの知人から「たかはるハートム」を紹介してもらった。新燃岳の被災地復興のために灰干しづくりを提案し、灰干しの試食会と講習会が開催された。その様子はテレビ宮崎や宮崎日日新聞で紹介された。これが功を奏し、高原町の人たちが、昨年からの口蹄疫・鳥インフルエンザ・新燃岳噴火の三重苦から脱すべく、熱心に灰干しづくりに取り組んでいる。

 その取り組みは、現地の新聞・テレビで何度も取り上げられ、宮崎県内では、日に日に灰干しに対する人々の関心が高まっている。

 一方で、筆者は東日本大震災の被災地でも、新燃岳の火山灰と三陸の魚介類を使用した灰干しづくりを提案しており、それが実現されることを願っている。






(上毛新聞 2011年7月22日掲載)