視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
東洋大学国際観光学科教授  古屋 秀樹(茨城県古河市)



【略歴】埼玉県狭山市生まれ。東京工業大大学院修了。専門は観光交通計画、観光行動分析。筑波大講師などを経て、2008年から現職。赤城山振興有識者懇談会委員。


観光イメージ向上



◎利用者視点で取り組め




 7月になり、JRの車内や構内で群馬デスティネーションキャンペーンのポスターを見る機会が多くなった。『夏の学校、群馬』は恐竜展の大きなポスターに隠れ気味であるし、上越線、信越線のSLは、磐越線や真岡鐵道などでも乗車可能な観光資源であるため、訴求力は十分でない様に感じる。圧倒的なブランドである草津温泉のような、これまでに多く取り上げられたものと違った切り口を取り上げる工夫かもしれないが、鉄道利用者の評価が気になるところである。

 また、単発のイベント情報のような側面が感じられ、統一したイメージ、シリーズの中でのシナリオ展開を読むことが難しい。情報を見る人の興味、取っ掛かりよりも、提供者の思惑が先行しているように感じられるが、今後を期待したい。

 このような広告、宣伝においては、観光者の認知や対象とする観光地の選好特性に注意を払う必要がある。例えば、消費者はその価値観、評価軸によっていくつかにグループ化でき、商品、企業もその評価、選好によって複数のグループに分けられると言われている。ある研究結果によれば、購買による消費者満足は、知覚品質、知覚価値、事前期待によって決定され、業種業態によって各要因の影響の大きさが異なる。

 ホテル、旅行業、航空会社など観光関連産業の共通項として、知覚品質、知覚価値よりも事前期待が高いことがあるが、これは頻度が少なく、十分な情報を保有しない観光行動に起因すると考えられる。観光情報の提供では、事前期待につながる特別感の醸成が重要で、そのために情報コンテンツや演出方法を考慮しなければならない。

 このような情報コンテンツの内容に加えて、情報の流動量も消費者心理や観光行動と密接に関わる。例えば、中国のLCCである春秋航空の茨城―上海便が7月10日から震災前と同様の頻度に戻るのをはじめとして、訪日中国人数が回復しつつある。これと中国におけるネット上の検索ワード別の検索数に関連性を見出すことができる。

 東日本大震災の直後、『日本、観光』の検索は検索エンジン『百度』でほぼ0になったが、5月上旬の渡航自粛の緩和に加え、日本旅行の価格値下げによって震災前の水準を超えるまでになった。時間の経過とともに、地震、原発の影響が正しく判断されるようになり、日本本来の魅力によって観光目的地としての評価が更新、改善されている事例と言える。

 これより、人々の認知をより高めるためには、定期的に魅力ある情報を発信する必要があるといえ、群馬の観光イメージ向上のために、不断の取り組みを利用者視点に立って進める必要があると考えられる。





(上毛新聞 2011年7月25日掲載)