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公立富岡総合病院看護部副部長・がん看護専門看護師  
                             清水 裕子
(高崎市稲荷台町)



【略歴】前橋市出身。病院で看護師の実務経験を積んだ後、北里大大学院看護学研究科修了。2006年、県内初のがん看護専門看護師の認定を受ける。


新人看護師の育成



◎研修充実で定着目指す




 私はがん看護に携わる一方、看護副部長の役割として看護学生の就職説明会に参加する機会がある。今年度はすでに4カ所の就職説明会に出かけた。就職説明会では当院の特徴や看護部の体制、院内の看護職員に対する教育やサポートシステムについて説明している。しかし、看護学生の関心は、給料はいくらか、お休みがどのくらい取れるのかという待遇についてはもちろんであるが、それよりも卒後研修体制について知りたいという声が多いのに驚かされる。

 新人看護職員の卒後臨床研修は、昨年4月に看護の質向上、医療安全の確保、早期離職防止の観点から努力義務化された。医師の臨床研修は2005年から始まっていることを考えると、多少遅れてはいるが、国全体で看護師を育てようという動きになってきたことはうれしいことである。当院でも今まで卒後研修を行っていたが、昨年から厚生労働省のガイドラインに沿って見直し、研修内容の充実に向けて取り組んでいる。さらに、看護部だけでなく「病院全体で新人看護師を育てよう」と、卒後臨床研修のための委員会を作り、検討を重ねている。

 このような研修が努力義務化された背景の一つに、新人看護職員の約1割が病院に就職して1年以内に離職しているという現状がある。学生時代に考えていた看護師としての理想と実際に就職して行う看護の現実とのギャップが大きいことが、早期離職につながっていると考えられている。看護学生の実習では患者さん一人を担当し、援助をしながら看護について学んでいく。しかし、就職すれば一度に複数の患者さんを担当し、それぞれの患者さんに合った援助を行っていかなければならない。また、入院日数が短くなっているため、常に新しい患者さんを担当しなければならない。 さらに、医療が高度化しているため、専門的知識の不足から医療事故を起こすのではないかと不安を感じながら業務を行っているという調査報告もある。そこで、保健師助産師看護師法の中にも臨床研修による資質向上を努力義務とすることが加えられ、新たに看護師等の人材確保の促進に関する法律が制定された。そして、厚生労働省は新人看護職員研修にかかる費用の一部を補助する事業を昨年から始め、研修体制の整備・研修内容の充実の実現を目指している。

 当院も卒後研修を1年間かけて修了するように計画し、実施している。この研修の成果として来年の春まで新人看護師が一人も欠けることなく、全員が看護部長から修了証書を受け取ってもらいたいと願っている。そして新人看護師が定着し、いずれ中堅看護師の充実となれば、患者さんへもより良い看護を提供できるようになるのではないかと感じている。






(上毛新聞 2011年7月27日掲載)