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共愛学園前橋国際大・入試広報・進路センター長  岩田 雅明(前橋市昭和町)



【略歴】東京都立大法学部卒後、共愛学園に就職。共愛学園前橋国際大の立ち上げと改革に尽力し、その経験から大学選びや学校経営などの著書3冊を著した。


企業の就職情報



◎公的システムの充実を




 7月1日、今年3月の大学卒業者の就職率の確定値が発表された。91・0%と、暫定発表値を0・1%下回る結果となった。この数字が大学生の就職状況を正しく表しているかといえば、実は関係者の感覚とはかけ離れたものといわざるを得ないであろう。

 どういうことかと言えば、実感はもっと厳しいということである。前稿に書いたように、今年から大学は卒業者数、就職者数、進学者数など卒業後の状況を公開することが義務付けられた。それらを見てみると、医療系は別であるが、学生数が最も多い人文・社会系の大学の就職率は7割前後という内容となっている。

 そして運よく7割の中に入って就職できたとしても、3年以内に離職してしまう者がそのうち4割弱もいるのであるから、継続して働いている大卒者は、全体の半分以下となる。このような状況の原因はもちろん学生側にもあるとは思うが、就職支援の現場にいると、低い就職率と高い離職率の背景には企業側の採用基準や人事政策にも原因があるのではないかと感じることもある。

 採用基準のことで言えば、先天的な資質という面の強い「打てば響くという感じの学生」は多くの内定を得るが、大学で養成を図っている「じっくり考えるタイプの学生」はなかなか内定が得られないという傾向がある。しかし企業の持続的成長のためには多様な人材が生むコンフリクト(衝突)が必要だと思う。コンフリクトによって戦略は吟味されるからである。長期的な展望に立った採用を望むところである。

 人事政策の面では、過度な競争でなく、適度な競争と併せて共同体意識の醸成もお願いしたい点である。共同体意識を持って働くことが、個人の幸せと同時に社会の幸せにも貢献する意義深いことであることを実感できるならば、離職の原因となっているストレスや不満の抑制につながるのではないだろうか。

 もちろん大学側も、これまで以上に学生の就業意識の高揚や、企業の活動に対する理解を促進していく必要があるといえる。就業意識の高揚に関しては、インターンシップ(就業体験)等で涵かんよう養を図っているが、企業活動の理解に関しては、まだまだ指導が不十分であると感じている。 最後に企業情報に関して提案したいことがある。現在の企業情報は、いわゆる就職情報サイトを通して学生に伝えられている。それは情報というより企業の広告という面もあり、しかも参加費を払った企業の情報のみが掲載されている。したがって特に地方の学生に必要な、地域の優良企業の情報が漏れてしまうことがある。この点を補えるような、群馬県内の企業情報の公的な伝達システムの充実をぜひお願いしたい。






(上毛新聞 2011年8月5日掲載)