視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
学習塾経営  福田 一男(大泉町吉田)



【略歴】新潟大大学院修了。三洋電機で半導体開発に携わり、07年、県内公立校で初めて民間から登用され、昨春まで太田商高校長。著書に『コスモスは咲く、必ず咲く』。


校長の役割



◎生徒視点で改革実現を




 群馬県初の民間人校長として3年間、公立高校で経験したことをお話ししたい。あとで職員から聞いた話だが当時、職員そして生徒たちは民間人校長に徹底した管理を強いられるのではないかと戦々恐々としていたらしい。しかし、着任後の経営方針発表やその後の職員・生徒との頻繁なコミュニケーションにより不安は払拭(ふっしょく)されたようだ。

 どんなに頑張っても従来の品格ある立派な校長にはなれないので視点を変え、「一番校長らしくない校長を目指そう」と考えた。教育現場での経験が全くないのも利点と考えて学校現場を客観的にみる自分流のやり方を貫いた。そういう考え方を一番支持してくれたのが生徒であり、その保護者であった。

 私自身、子供が大好きなので生徒たちとはすぐに意気投合した。校長室を開放し、いつでも生徒が校長と会話ができる環境を用意した。毎日、たくさんの生徒が校長室を訪れ、彼らの夢や悩み、そして要望や苦情を語ってくれた。また保護者ともPTAの会合や部活動の保護者会等の席で大いに語り合った。生徒からの要望に対しては今まで学校側から拒絶されていた内容も含め真摯(しんし)に検討し、かなりの部分を実現した。保護者に対しては学校からの協力依頼が多かったが、面倒なことも二つ返事で協力してもらうことができた。コミュニケーションを増やすことにより学校と生徒・保護者との信頼関係が高まり、学校運営上、非常に大きな助けとなった。

 職員に対してもコミュニケーションを第一と考え、職員が交代で行う朝会時の1分間スピーチ、Eメールによる月報や意見の提出、職員室への校長机の配置等により意思疎通を図った。職員も何かあるとすぐに報告や相談に来てくれた。勤務時間内は職員や生徒との対話を優先し、本来の校長としての業務は夜または土日にやることにした。

 学校とは恐ろしく保守的なところで、今日一日何もなければ良い日だったと思うような職場だ。何か目新しいことをやろうと職員会議で提案すると、ほとんどの職員が反対して前例を重視する。新しいことをやると仕事が増え、必ず問題も発生するからだ。前例にとらわれず、失敗を恐れないで生徒のために頑張るといった前例主義という呪縛を解き放つには校長の力量によるところが大きい。

 校長の権限は意外と強く、最終的な決裁権は校長にある。職員会議の多数決で物事の可否を決める時代は昔の話だ。それだからこそ校長の裁量で学校は大きく変革できる。校長一人では何も変わらないという人がいるとすればそれは大きな誤解である。校長が変われば学校が変わる。校長にはぜひ、生徒視点での改革を強い意志で実現してほしいものである。





(上毛新聞 2011年8月6日掲載)