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音楽ライター  サラーム 海上(東京都世田谷区)



【略歴】高崎市出身。本名は海上卓也。明治大政経学部卒。2000年からフリーで執筆。和光大学オープンカレッジ講師。ラジオのレギュラーとしてDJも担当する。


音楽とDJ



◎時間忘れ踊ってみよう




 音楽評論家とは基本的には自宅に引きこもりっぱなしの仕事である。僕は時々ラジオや講義で外出するが、後は音楽家を取材に出かけたり、コンサートを見に行くくらい。自宅で音楽を聞きながら机の前で原稿を書いているだけで、丸一日、家から出ないこともしょっちゅうだ。しかし、週末だけ僕の生活はガラッと変貌する。都内や全国各地のクラブで夜通しDJをするからだ。

 ご存じのとおり、DJは楽器を演奏するわけではなく、音楽家の作ったCDやレコードをかけるだけだから、誰でもやろうと思えばやれる。しかし、見ず知らずの人をいきなり踊らせられる曲を無数に知っている必要があるし、ダンスフロアに集う人々の気分に合わせて、その場で曲を選んでいかなければならない。心地良いリズムが途切れないように曲をつなぐ多少の技術も必要だ。僕自身はいつまでたってもヘッポコDJだが、インド音楽やベリーダンス音楽をプレーするDJは日本全国でもほとんどいないので、おかげで楽しい仕事をいただいている。

 しかし、換気の悪いクラブで朝まで起きているのだから健康に良いわけない。僕はたばこも吸わないし、深酒すれば翌日もつぶれてしまうので、年を取るごとにきつくなってきた。90年代末、若者のなりたい職業の上位になぜかDJがランクインして、びっくりしたことがあるが、現在の1位は公務員だ。どちらが正しいとは言わないが、たった10年でガラっと変わってしまう世相には驚いてしまう。

 それでもDJを続けている理由は? それは多分、自分が若かったころに夜中のクラブで、素晴らしいDJたちによってたくさんの新しい音楽を知り、忘れられない時間を過ごしてきたからだろう。そして、仕事を通じては出会う機会がなかったような別の業界の人たちともたくさん知り合うことができたから。その多くは今も友人だ。

 風俗営業法や騒音問題、市街地のドーナツ化、若者の外出嫌い、3・11以降の外食業界不振など、現在、全国のクラブは前途多難だが、音楽に合わせて時間を忘れて踊るという行為自体は人間にとって本能的な行為である。音楽は時代とともに変化するが、踊りは現生人類が地球に現れた数十万年前から途絶えることなく続いている。100年前の日本なら祭りの音頭や民謡だった。それが今、ヒップホップやテクノやベリーダンス音楽に変わっただけだ。

 ストレスを抱える前に、時には音楽に合わせて我を忘れて踊ってみてはいかがだろう。音楽もDJもクラブもそのために存在するのだから。






(上毛新聞 2011年8月7日掲載)