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中之条ビエンナーレ総合ディレクター  山重 徹夫(中之条町上沢渡)



【略歴】広島県出身。多摩美大卒。制作ディレクターなどを経てデザイン事務所Playground Studio主宰。アートイベントやクリエイティブセンターTSUMUJI運営。


中之条ビエンナーレ



◎「つながり」を残したい




 いよいよ2年に1度のアートイベント「中之条ビエンナーレ」が始まる。四万温泉でひと足早く始まったプレオープンも順調なスタートで、作家の公開制作や一般参加企画など中之条ビエンナーレができる過程を見ることができる。

 そんな準備の真っただ中に一番気にかけていること、それはイベントが終わった後のことだ。まだ始まってもいないのに気が早いと思われるかもしれない。

 イベントが終了してしまえば、インスタレーションなどほとんどの作品は撤去され、見ることもできなくなる。その時にしか見られない作品のために、作家はなぜ仕事をするのだろう? アートイベントにかかわる地域住民が一番不思議に思うことである。お金にもならないことを汗水流してやる変わり者と、そう思っている人も少なくない。その中で、よくわからないけど面白そうだと好奇心を持ってかかわった人だけが、その精神性に触れ本質を知ることができる。

 中之条ビエンナーレに足を運んだ際は、好奇心と想像力を持って作品と向き合ってみてほしい。わからないと思えばわからないし、知りたいと思えば知ることができる。タイミングが合えば作品のそばに作家がいるかもしれない。そんなときは感じたことなど何でも話しかけてもらいたい。作家は作品と対話し、鑑賞者と対話し、作家と鑑賞者の2者がいるから作品が成り立つ。作家が求めているものは対話なのだと思う。

 前回と比べ、イベントを取り巻く環境として大きく変わった点は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が爆発的に普及したことだろう。単なる口コミメディアとしてではなく、作家や来場者同士が手軽につながることができ、リアルタイムにコミュニティーが作れてしまう。私はアートイベントで「つながり」を作ることを最も大切にしているため、このSNSの普及には大きな可能性を感じている。

 イベントをきっかけに住民や来場者、または作家同士が対話し、終わった後に、どれだけのつながりが残るのかが大切だ。規模や成果として来場者数が発表されるのが普通だが、このSNSの普及により、つながった数が成果として発表できる日が来るかもしれない。

 私はディレクターとして作家と築いてきた信頼関係をとても大切にしている。そしてこの仕事を始めてつながった人数は計り知れない。全てが終わった後、このつながりこそが最後に残るものだと考える。イベントが大きくなるにつれ、多くの人が関わるようになりさまざまな思惑が混じり、目的を見失いそうになることがある。そんなとき、私はいつもサンテグジュペリの「本当に大切なものは、目に見えない」という言葉を思い出すのだ。






(上毛新聞 2011年8月8日掲載)