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前・神流町恐竜センター学芸員  佐藤 和久(神流町神ケ原)



【略歴】埼玉県出身。千葉大卒。モンゴルでの化石発掘を機に不動産会社を退職。1999年から2011年3月まで恐竜センターに在籍。03年には、学芸員の資格を取得。


化石の発掘体験



◎「感動」や「気付き」得る




 恐竜センターでは、1999年から「瀬林の漣痕(れんこん)・恐竜の足跡」付近で化石発掘体験を行っている。当初は恐竜センターのパンフレットに掲載しただけだったため参加者は少なかったが、2002年から恐竜センターホームページでも紹介したのに伴い、参加者は増加した。

 化石発掘体験地は、化石を含む露頭で行っており、化石の出る場所から石を運んできたり、ばらまいたりはしていない。いわば研究者と同じように「現場」で化石発掘ができる。そのため、化石が出る地層に当たれば、山のように化石が採れるが、化石を含まない地層なら、当然化石は全く出ない。そんな現場では当たり前のことを、化石発掘体験地で体験できる。 しかも、ここは恐竜がいた中生代白亜紀前期の地層で、この近くから恐竜の足跡や骨も見つかっているので、恐竜を見つけることを夢見て参加される方もいるようである。そんな宝探しのような非日常を体験できることが、化石発掘のおもしろさだと思う。

 また、化石発掘のような体を使った体験を行うと、自分の向き不向きがわかる。例えば、恐竜が好きで、恐竜の名前は何でも知っている子が、実際に化石発掘をやってみると化石を見つけられなかったり、それほど化石に興味がなかった子が、やってみたら見つけるのが上手で化石にはまってしまったりということがあった。

 私も何度も化石発掘をしてきたが、特に誰も探したことがないと思われる場所や事前調査で予測した場所で化石を見つけた時は、本当に達成感を感じた。なぜなら、調査の場合、見つけるまでに何度も化石が出ない「はずれ」を経験するからである。

 このような経験から、化石発掘体験では、まず参加者に基本的な情報を伝え、あとは参加者が思いのまま探すことが本人にとって良いことだと、私は思っている。

 とはいえ、参加者の中には「どこから化石が見つかりますか」と、やる前から聞いてきたり、ちょっとやって見つからないと、指導者や周りの人のせいにしたり、他の人が見つけているにもかかわらず、思い通りにならずふてくされ、ここには化石はないと発掘を放棄する人もいた。

 残念ながら、こういう人たちは「化石を採ること」が目的であって、体験から得られる「感動」を知らないのだろう。目先の利益にとらわれ、楽に目的を達成することが大切だと錯覚しているようにも感じる。

 だが、体験活動において重要なのは「物」を得ることではなく、体験を通じて「感動」や「気付き」を得ることだと思うのだが、いかがだろうか。一人一人が特別な存在だからこそ、体験からぜひ自分で「何か」を感じてほしい。






(上毛新聞 2011年8月9日掲載)