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藤岡北高教諭  中尾 徹也(藤岡市牛田)



【略歴】藤岡市生まれ。東京農業大農学部卒。1995年、県の農業教員として採用され、伊勢崎興陽高に赴任。その後、富岡実業高を経て、昨年から現職。


あいさつ、会話、笑顔



◎野菜の販売実習で実践




 「朝採りのトマトやキュウリはいかがですか」「新野菜のアイスプラントです。天ぷらにしてもおいしいですよ」。農業高校では、種まきから丹精して栽培した新鮮な野菜や草花を地域に提供する販売実習を行っている。本校でもイベント会場や市役所、警察署などで地域の方々に新鮮野菜を味わってもらい、好評を得ている。

 学校現場では、これからの社会人として求められる能力として、場面や状況に応じて、相手の話を理解し自分の考えや意見を表現するコミュニケーション能力は重要であると考えている。現在は携帯電話やインターネットの普及により、顔と顔を向き合わせない会話やメールでのやりとりで用件を伝達することが日常化している。また、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでは会話をしないで買い物を済ますことができる。日常生活において人とのかかわりの中で、意思疎通を図る機会が失われている。

 農業高校では顔と顔を向き合わせた対面販売を行い、地域の方々とのあいさつや会話を通して「人とかかわる交流活動」を実践している。この活動では「トマトは甘くておいしかったから、また来てね」「こんなきれいなシクラメンを生徒さんがつくったの」と、うれしそうな表情とお礼の言葉で、生徒は自分たちで栽培した野菜や草花が喜んでもらえた満足感や役に立てた成就感を体験できる。その経験が彼らの自信とやる気につながってくる。

 また、「家族が少ないからこんなにいらないの」「キュウリだけではなくて、いろいろな野菜あるといいのに」との会話から、パッケージや販売方法に課題を見いだし、喜んでもらうために工夫する。この実習の中で生徒が「重いので気をつけてお帰りください」と笑顔で話す姿を見ると、思いやりや優しさを培っていると実感できる。

 このように、販売実習に欠かすことのできない「あいさつ」「会話」「笑顔」を実践することにより、人と人をつなぐコミュニケーション能力を培い、農業教育を通して地域貢献に寄与している。

 農業高校では、新鮮でおいしい野菜やきれいな草花を種まきから販売まで心を込めて行っている。この教育活動で、栽培に関する専門的な知識や技術の習得、経営と管理について学習している。さらに、高度情報化社会において、見失われつつある顔と顔を向き合わせた「あいさつ」「会話」「笑顔」のコミュニケーション能力を育んでいる。

 これからも、次代を担う農業高校生に地域とのかかわりを通して、明るいあいさつや会話の楽しさを知り、笑顔と思いやりのある豊かな人間関係を築くことのできる人材の育成に取り組んでいきたい。







(上毛新聞 2011年8月13日掲載)