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黒沢病院附属ヘルスパーククリニック院長・画像センター長
                              佐藤 裕一
(高崎市矢中町)



【略歴】新潟県柏崎市生まれ。日本大医学部卒。同大医学部内科学教授を務めた後、2009年から現職。


日本人に多い脂肪肝



◎あなどらずに受診して




 脂肪肝は、現在日本人の3人に1人が潜在的にかかっているといわれている生活習慣病のひとつです。

 特に近年急速に増加しており、健診で「脂肪肝」といわれた方は多いでしょう。

 沈黙の臓器といわれる肝臓の病気らしく、疲れやすい、体がだるい、食欲がない、といった症状が現れるときにはすでに手遅れになることもあります。脂肪肝は特に日本人に多く、別名「節約遺伝子」といわれる、脂肪を蓄積しやすい遺伝子を多くもっていることに加え、食生活の急速な欧米化がその増加に拍車をかけていると考えられています。

 脂肪肝には二つのタイプがあります。アルコールを飲む人と飲まない人です。前者は禁酒で改善します。また、肥満のない方(BMI25%以下)でも、5人に1人は脂肪肝があることも分かっていますから、太っていないから大丈夫、とは考えないでください。

 脂肪肝のうち、約10―15%の人が肝硬変や肝臓がんに進行すること(非アルコール性脂肪肝炎、NASHといいます)から、決してあなどれない病気です。NASHが疑われたときには肝臓の専門医を受診し造影エコー検査や、場合によっては肝生検で診断を確定してもらいましょう。当院では肝臓専門医と管理栄養士による厳しい食事療法と薬でおもてなしさせていただきます。

 ではNASH以外の脂肪肝は放置していいのでしょうか? 

 近年、脂肪肝は心筋梗塞症や、脳梗塞症の重大な危険因子であることが分かってきました。メタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)と同じく、脂肪肝からもTNF―αなどの炎症性サイトカイン(生理活性物質)が血液中に放出され、さらに体内の酸化コレステロール値も上昇し、動脈硬化を促進するのではないか、という疫学研究もあります。

 したがって、脂肪肝は肝臓病であると同時に、循環器内科の病気であるともいえます。この状態も、当院では頸けい動脈エコーやFMDによる動脈硬化の判定を行い、循環器専門医(つまり私)に動脈硬化症あり、と判定された方は厳しい食事療法と運動療法で接待いたします。

 脂肪肝の危険に対する医師の認知度は、残念ながら高くはありません。ですから、脂肪肝なんて、ちょっとやせればいいのですよ、などと病院で言われることが多いでしょう。ですが、決してあなどってはいけません。必ず肝臓専門医と循環器専門医を受診してください。






(上毛新聞 2011年8月19日掲載)