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わたらせフィルムコミッション(WFC)代表  長谷川 博紀(桐生市東)



【略歴】三重県出身。1998年に森秀織物入社。現在、同社社長。元桐生青年会議所理事長。2010年4月からWFC代表として映像作品製作の支援活動に取り組む。


地域が選択する道



◎本当に大切なもの継承




 戦後の復興から経済成長まで一気に発展してきた日本は、これから進むべき道を探さなければなりません。その中で地域が担う役割も重要になってきます。

 経済大国でなくなりつつあることを憂えている場合ではありません。地域や国のアイデンティティーを継承し、有事にも備えられる産業構造を選択するか、それとも、とにかく行ける所まで近代の輸出産業に頼り、1次的な産業基盤はある程度、犠牲にしていくのかすぐに選択しなければなりません。

 悩んでしまうのは、国がどちらを選んでもベストな選択ではなさそうなことです。それは地域に住むわれわれに選択が迫っている危機感がなければ、どちらも一部の人の徒労だけに終わるかもしれないからです。

 経済大国という、よく考えてみれば実態のない不安定な土台にすがってきた日本が、新しく生まれ変わる時です。食べ物も作れない、着る物も作れない、住むところも賄えない、それを輸入できるお金も手段もない国が想像できますか? われわれはどんな生活を目指すのか、何が大事なのか、もう一度地域で考えていきたい。継承するべき産業がまだ残されている今だからこそです。

 食糧危機も、TPPも、輸出規制も、そして、考えたくありませんが、この国を取り巻く有事になりえる環境も現実の話です。決して仮定の話ではありません。

 安いからと飛行機で燃料を使って食料を輸入する、自分たちでは生産しない物を身にまとい、余るほど食料を集め食べる。とにかく経済的な事柄を優先する。歴史を眺めると、似たような昔の大国が進むべき道を誤って滅んでいった過程を見ることができます。国家基盤の産業もアイデンティティーも継承できない国がどうなるかは明白だと思いませんか。地域で作った物を食べて、着ることがなぜできないのか? 価格が高いから、それだけです。

 経済大国の看板で闊歩(かっぽ)できた時代は終わったのですから、経済的なことが全てに優先する選択も終わりを迎えます。そういえば、「もうけるために会社も売る。何でもする。もうけなければ意味がない。お金で買えない物はない」と言った方がいましたね。われわれ日本人はそれに対して「ノー」だったはずです。そうでなければ、日本人のアイデンティティーが本当に何もなくなってしまいます。この国に地域が存在した痕跡すらもなくなってしまいかねません。誤った判断によって、繁栄した国が一世代で滅んでしまったなんてことは、絵空事でなく何度も歴史の中で繰り返されています。

 今、われわれが地域でできることは、目先に振り回されず、本当に大切なものを継承していくことだと思います。






(上毛新聞 2011年8月20日掲載)