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別府大文学部教授  丑木 幸男(大分県別府市)



【略歴】県文化財保護課、県史編さん室から武尊、渋川女子、中央各高校教諭を務めた後、国文学研究資料館史料館長、アーカイブズ研究系研究主幹などを歴任。



アーキビスト



◎資格認定制度の実現を




 文書館でアーカイブズを取り扱う専門職員のことをアーキビストという。図書館の司書、博物館の学芸員のように、文書館にアーキビストを置く必要がある。

 人びとが生活すると、契約書、証書、日記、手紙などから、スーパーのレシート、伝票等々の記録が大量に蓄積される。それらには人々の生活が映し出され、組織活動の証拠にもなる。

 過去の記録を保存し、利用者に提供するとともに、現代社会を的確に復元する手がかりとして、いまの記録を整理して残すことがアーキビストの役割である。

 年金記録問題などのように公文書にまつわる不祥事が後を絶たない。そうした証拠を隠したり改ざんして、事実をゆがめようとする圧力に抵抗してでも、必要な記録を完全に保存する、専門的業務を遂行するプロフェッショナルとしての職業倫理が、求められている。それによりアーカイブズが過去の信頼できる客観的な証拠として保証されるのである。

 ところが、困ったことにわが国にはアーキビスト資格認定や養成する制度がない。

 こうしたなかで国家資格としての実現は困難なようなので、民間で資格認定することが提案されている。

 アメリカなどではアーキビスト協会という民間団体が資格認定していることにならい、民間団体であるアーカイブズ学会が、大学院で7科目を履修し、一定期間の実務経験を積むと、登録申請資格ができ、審査して専門的業務遂行能力があると認定されれば、アーキビストに登録するという提案である。大学院に行かなくても、実務経験を多く経験すれば同様の資格を得ることができるという。

 その科目は、社会的文化的使命や職業倫理などを学ぶ「アーカイブズ学序論」、「同法律・行政論」、「同保存・修復論」、電子記録の保存活用などを学ぶ「同情報処理論」、記録史料の流れに即した「同管理論」、その性質や特徴などを探求する「同研究」、および現在の組織活動と記録などを学ぶ「記録管理論」であり、アーキビストに求められる大きな役割を反映して、多様な科目が挙げられ、アーカイブズに関する知恵を体系的に学ぶことになる。

 90分授業を半年受講すると2単位になるので、毎週3・5講義を1年間受講して合格すると14単位履修になり、さらに1年間の実務を経験すると登録申請資格ができる。しかし、これだけ複雑な内容をこの時間で体得するのは厳しい。専門的業務の知識と能力を身につけるには、自己研さんが必要であろう。

 今後検討が積み重ねられ、充実した制度に練り上げられ、一日も早く資格・養成制度が実現し、優秀なアーキビストが誕生することを期待している。






(上毛新聞 2011年8月21日掲載)