視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
NPO法人・手をつなごう理事長  田中 志子(沼田市久屋原町)



【略歴】帝京大医学部卒。認知症を主とした老年医学専門医師。2008年「いきいきクリニック」開業。認知症啓発に取り組み、県認知症疾患医療センターのセンター長兼務。


介護は頑張りすぎない



◎抱え込まずに相談して




 認知症の在宅介護では、その負担のほとんどがご家族にかかってしまう。介護サービスを使う前や認知症の状態が落ち着くまでは家族の方の心身の疲労は大変大きい。外来で診察する際には必ずご家族からもお話を聞いている。どこがつらいか、何に悩んでいるか、一緒に共有しケアの工夫の提供や負担感の共有を行っている。

 まだまだマイナスのイメージが強い認知症患者のご家族は周囲に「家族が認知症であること」を言えないでいる。そのため周囲に対する気兼ねや羞恥心、介護にかかる身体の疲労、認知症のさまざまな症状に対する精神的な負担に悩まされてしまう。中には泣き出してしまうご家族も少なくない。

 しかし、きちんと症状にあった対応をしたり、治療やケアによって状態が落ち着けばいつまでも今の症状は続かない。必ずと言っていいほど好転するものである。仮に状態がうまく改善しなくても介護サービスを十分活用するなど、生活そのものを変化させることができる。まずは、悩まないで相談してほしい。在宅介護では頑張りすぎないことがとても重要である。 とある家族の話である。「毎朝起きると床にある母親の大便の片づけから一日が始まる。孫である自分の子供に悟られないよう片づけることはとても情けない」と、涙ながらに話された。大丈夫なんて簡単に言えるようなことではない。もしも自分だったらと彼女の心痛を思うと本当に胸が痛んだ。

 でも、必ず私たち専門家は負担感という荷物を一緒に背負うことができるはずだ。介護サービスを提供すること、内服を調整すること、関わり方を伝えることなど、患者さんとそのご家族にあった支援を私たち専門家は考えている。

 幸いアルツハイマー病に関しては、この夏、ドネペジル発売から10年たち、ようやく新しい薬が次々に発売されている。症状を見ながら新薬を選び使用しているが、期待以上の効果が表れている人もいる。また、病態の解明も徐々に進みつつある。

 群馬県は認知症に関しては先進県である。全国でもトップクラスの認知症疾患医療センターの数や愛知県などに次いでいちはやく群馬県介護高齢課に認知症・地域支援係が設置されているなどがあげられる。予防から要介護者の治療、そしてケアの相談まで各地域に専門家が配置され、現在ネットワークの構築に動き出している。ご家族は介護を抱え込まないでもっと社会資源を活用してほしい。そして気軽に相談してもらえるような事業者が増えるよう専門家の輪を広げたい。





(上毛新聞 2011年8月24日掲載)