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新島学園短大准教授  亀井 聡(高崎市飯塚町)



【略歴】宮城県生まれ。県内の児童養護施設在職中に資生堂児童海外研修に参加し、豪州の児童虐待の取り組みを視察。その後駒沢大大学院を修了し、2006年から現職。


「自立」を考える



◎社会が支える仕組みを




 前回の原稿で、社会的養護は施設等で暮らす子どもの自己実現の環境を整えることが重要であると述べた。自己実現とは、自分らしく生きることであり、これを支えるのが自立した生活である。自立をどのように考えるかが重要になっていく。

 自立という言葉から「他人に依存しないで生活をする」と連想する。しかし、今日の社会においてこのようなことがあり得るだろうか。成人になるまで、あるいは成人になってからも保護者から有形無形の支援を受けながら資格取得や就職することは少なくない。他人や社会に依存しながら自立していく、すなわち依存的自立としてとらえるべきである。また、経済的に自立したからといって自立が完了したといえるだろうか。自己実現の観点から考えれば、今の自分からさらにもう一つ上の自分を目指すことも含まれる。それを目的概念としても自立をとらえることができる。

 依存しながら自立し、自分を高めていくことは人として当然であり、権利としての自立ととらえるべきではないだろうか。権利としての自立という考え方は、ノーマライゼーションの思想の展開、アメリカの障害者の自立運動等を通して障害者福祉の分野で進められてきた考え方であり、子どもの権利条約の理念にも通じている。

 権利としての自立という考え方が社会的養護で必要かというと、厚生労働省の「社会的養護の現状(平成22年)」によると、児童養護施設で高卒就職は約67%である。そして児童養護施設への入所時年齢の平均が約6歳で、平均在園年数が4・6カ年―を考えれば、高卒就職は保護者への依存ができにくい状況である。そのため、将来の生活資金を得るためにアルバイトを行わなければならない。就職条件は、住居と就職が同時に保障されるところになる。また、就職の支度費が公的に支給されるが、群馬県の場合は約8万円であり、アパートすら借りられない。それは、依存的自立を困難にするだけではなく、職業選択が制限されることになる。

 また、職を失えば住居も同時に失うことになり、同じような条件で職探しをしなければならない。そして社会的不利益を背負うことにもなる。その特徴として職業選択の幅が狭く、似たような職業を転々とする「袋小路の職業」での転職、さらに生活スキル未確立、家庭生活の不安定さ等が挙げられる。

 アルバイト中心の生活は、目的概念としての自立を放棄せざるを得ない状況を生む。事実、社会的養護からの大学等への進学率が約23%という低さからもわかる。権利としての自立を進めるためには、施設だけの努力では限界があり、社会が支援するシステムの構築が求められる。





(上毛新聞 2011年8月26日掲載)