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群馬大大学院工学研究科教授  鵜飼 恵三(桐生市相生町)



【略歴】宮崎県生まれ。東京工業大大学院修士課程修了。群馬大工学部建設工学科助教授などを経て1992年に同大教授。日本地すべり学会長。工学博士。



被災地で泥かき清掃



◎根付く奉仕活動を実感




 6月26日と7月17日の2日間、東日本大震災の災害ボランティアの一員として、宮城県岩沼市に赴き、泥かき清掃を手伝ってきた。災害ボランティアへの参加は初めてであり、不安もあったので、いずれの日も同行者を誘っての参加であった。

 行程は、朝6時に桐生を貸し切り団体バスで出発、高速道路を経て、10時半ごろ現地到着、ただちに作業開始となる。夕方4時には作業を終え、桐生に夜9時前に帰着する。参加者は老若男女さまざまである。6月26日は、津波が引いた後、民家の床下に残された厚さ10センチほどの泥をかきだす作業で、7月17日は神社社務所の床にたまった泥やがれきを撤去する作業であった。引率のスタッフから事前に作業内容と注意事項が伝えられ、作業が開始された。最初は戸惑いながらも、すぐに皆が作業内容を把握し、誰に命令されるでもなく協力し合い、黙々と各自の役割を果たしていく様子が強く心に残った。

 本活動は自主的な参加を基本とし、簡単な作業用具、昼食、バス代の一部も自己負担である。スコップなどの工具と運搬用のトラックは桐生市内の企業が無償で提供しており、活動の支えになっている。行きの車中では簡単な自己紹介、帰りには感想を求められた。各自が気負いのない自己紹介と感想を話すのが印象的であった。また皆が自らの活動に満足しているように見えた。ボランティア個人が行う泥かきやがれきの撤去は小さなものかもしれないが、被災者のために何か役に立ちたいという思いは、間違いなく被災者に届いていると思う。

 この活動は、桐生災害支援ボランティア派遣センターが中心になって運営している。大震災直後の3月13日には茨城県大洗町で第1回の炊き出しを行い、4月3日には岩沼市で泥かき清掃を開始している。泥かき清掃は8月21日時点で計47回に及び、桐生市内の高校生も多数参加するなど、特徴のある活動を続けている。これらの活動の詳細は同センターのホームページに掲載されているので参照されたい。

 私は震災後、大学の研究者として地震による地すべり災害の調査を何度となく行ってきた。これは仕事の一部として自分に与えられた社会的な役割を果たす行為である。一方、災害ボランティア活動は、仕事や職業とは無関係な一人の人間としての無償行為である。すべての人の心の中にある「社会に役立ちたい」という思いをすくいあげ、ボランティア活動へと導き、満足感を与える、そしてその行為が被災者らの支援になる。災害ボランティアに参加して、こうした仕組みが社会に根付いてきていることを実感し、これからさらに社会に広がって行けば良いと感じた。







(上毛新聞 2011年8月28日掲載)