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スポーツコーディネーター  藤口 光紀(東京都大田区)



【略歴】旧粕川村出身。慶応大学卒。サッカー日本代表、浦和レッズ社長を経て、現在広島経済大学教授、日本サッカー協会・Jリーグ参与、新島学園短期大学客員教授。


なでしこの快挙



◎真価問われる五輪予選




 なでしこジャパンが国民栄誉賞を受賞した。ドイツで開催された女子ワールドカップで強豪のドイツ、アメリカを下しての世界一。FIFA(国際サッカー連盟)主催大会で男女を問わず、日本として世界一は初めてであり快挙である。好きで始めたサッカー。ボールを蹴る喜びを求めて海を渡り、環境を変えてまで好きなサッカーにこだわり、ひたむきに取り組んできたことが実を結び、国を動かしたのだ。佐々木監督の言葉を借りれば、「小さな娘たちが本当に大きなことをしてくれた」ということになる。

 しかし、真価を問われるのはこれからである。9月に中国で開催されるロンドンオリンピックアジア最終予選。ワールドカップ以上に厳しい戦いが待っている。中1日・2日でのタイトなスケジュールで日本らしいサッカーができるかがポイントになる。どの対戦国も日本チームを研究し、日本らしいサッカーをさせない対策を立ててくるものと思う。その中で、ワールドカップの時と同じように挑戦者の気持ちでひたむきにサッカーに取り組むことができるのかが注目される。

 人の心は難しいもので、一度いい思いをする、頂点に立つと初心を忘れてしまうことが間々あるものだ。なでしこフィーバーでメディアの取り上げ方が異常とも思えるほどすごい。世界一になったのだから当然と言えば当然であるが、大会前までのなでしこへの関心と比較すると怖いものがある。日本のスポーツメディアの特徴とも言えるが、非常に刹那的であるように思う。躍らされるな!なでしこ。

 今回のなでしこジャパンの優勝は、東日本大震災の復興中の日本にあって、一杯の清涼飲料になり、大いに国民を勇気づけたことは疑いの余地はない。忘れてならないのがフェアプレー賞を受賞したことである。この賞は最も警告(イエローカード)や退場(レッドカード)の数が少なく、クリーンにプレーしたチームに与えられるものである。フェアプレー賞を受賞しての優勝は女子のワールドカップ史上初めてのことであり、その価値の高さがうかがえる。常々「真の強さはフェアプレーである」と考えている小生にとって、本当にうれしいことである。

 なでしこの活躍に刺激を受けたのか、8月10日に札幌で開催された国際試合キリンチャレンジカップで男子の日本代表は宿敵韓国相手に3対0の勝利。内容も伴っての快勝で、9月から始まるブラジルワールドカップアジア地区予選に弾みがついたことは間違いない。

 2011年9月は、日本サッカーが新たなステージにステップアップする節目になる時であろう。日本という国そのものも新たなステージに進まなければならないと強く思う。







(上毛新聞 2011年8月29日掲載)