視点 オピニオン21
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なかや旅館社長  阿部 剛(みなかみ町湯桧曽)



【略歴】沼田高、新潟大経済学部卒。1994年に実家のなかや旅館に入り、98年から現職。著書に『1日10分!「おもてなし」ミーティングがあなたのチームを強くする』。


挨拶



◎メッセージをやりとり



 前回の「視点 オピニオン21」(7月10日付)で、当なかや旅館では、2カ月に1回、「ノー挨拶(あいさつ)デー」という日があることをお伝えしました。

 この日、スタッフは「おはようございます」と「お疲れさまでした」を言うことが、強制的に禁止されます。これは、「毎日何げなく交わしている挨拶の大切さと、その意味をあらためて考える」ために、行われています。挨拶が交わされない日、スタッフ全員は、たまらない居心地の悪さを感じて勤務に当たります。

 では挨拶がないと、なぜ居心地が悪く感じるのでしょう? これは、日ごろ何げなく交わしている挨拶がいかに大切な意味を持っているか、という証しなのかもしれません。以下、あくまでも私の解釈ですが…。

 私は人が挨拶を交わす時、その人たちは言葉以外のメッセージをやりとりしている、と捉えています。言葉になっていない思い・雰囲気・感じ・感覚…。これらをまとめて「メッセージ」と私は呼んでいます。

 人間同士が挨拶を言う(する)と、挨拶をした人たちの間では、このメッセージのやりとりが行われる。つまりその人たちの心の中で、「言葉になっていない何か」のキャッチボールが起こる、キャッチボールが行われている、と考えているのです。

 例えば「おはようございます」。この言葉自体の意味を、英語に置き換えれば、単純に「グッドモーニング」ということになります。ではこの場合、「グッドモーニング」以外に投げられるメッセージとは何でしょう? 私は、「おはよう」の持つメッセージを次のように考えています。

 「(『おはようございます』と言葉にした瞬間の)今から、あなたとの一日が始まります。今日も一日、よろしくお願いします」

 「お疲れさまでした」の場合では、「これで、あなたとの一日は終わりです。今日も一日、ありがとうございました」。

 これらのメッセージが、素直で気持ちよくやりとりされれば、その後の人間関係もスムーズに始まっていくでしょうし、逆であれば、ぎくしゃくし、あるいは居心地悪くさえ感じながら、職場の時間を過ごすことになるでしょう。

 今回お伝えしたことに、異論のある方や、納得いかない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、気持ちのいい挨拶と職場の人間関係は密接に結びついている、ということは一つの事実であろう、と思うのです。

 気持ちのいいおもてなしで仕事ができるために、職場の人間関係を整える。これは、誰もが願い、求めていることですが、日ごろ何げなく行っている挨拶の意味と大切さをあらためて考えてみることは、この職場の良い人間関係に想像以上に役に立つような気がしています。







(上毛新聞 2011年9月5日掲載)