視点 オピニオン21
 ■raijinトップ ■上毛新聞ニュース 
.
和歌山地方気象台長  阿部 世史之(和歌山市)



【略歴】富山県八尾町(現・富山市)出身。気象大学校卒。仙台管区気象台予報課長、気象庁予報部予報官、前橋地方気象台長などを経て、今年4月から現職。



増加する短時間強雨



◎「自助」で危険の回避を



 昨年5月に市町村単位で発表を始めた注意報・警報の防災効果や課題などについて懇談するため、その秋から冬にかけて群馬県内35市町村を訪問しました。懇談の場で「最近は猛烈な雨が多くなった」「祭りの日に突然激しい雨が降り、道路の排水が間に合わず膝まで漬かった」「町に警報は出ていなかったが狭い範囲で豪雨になり、小さな川があふれて床下浸水の被害があった」などが話題になりました。

 全国のアメダスで観測した1時間降水量50ミリ以上の年間発生回数は、1986年までの11年平均で1000地点あたり168回だったのが、最近は226回に増えています。前橋地方気象台も検討に参加し、関東地方整備局がまとめた利根川上流域(伊勢崎市八斗島地点より上流)の気候変動状況で見ても、1時間降水量80ミリ以上の年間発生回数が増加傾向にあります。

 「平成23年7月新潟・福島豪雨」で、新潟県内では十日町市の1時間121ミリをはじめ、記録的短時間大雨情報を30回も発表するほど短時間強雨が多発しました。群馬県内で気象庁が観測した最大1時間降水量の1位(8月23日現在)は1997年9月11日に前橋市で記録した114・5ミリで、建物などの浸水被害が400件以上発生しました。

 このような短時間強雨は前線の南側などで大気の状態が非常に不安定なとき、組織的に発達する積乱雲(雷雲)がもたらします。雨の範囲は狭いのですが、降った雨は低い場所へ一気に流れ込むため、群馬県に多い渓流や用水路のほか、線路のアンダーパスなどが急に増水・冠水し、雨から十数分で甚大な被害や事故に至ることがあります。

 短時間強雨は、何時間も前から場所と時刻を特定して予想することができません。急な水害から身を守るためには、自らが危険を認識して回避する「自助」が大切で、その判断には災害をイメージする力、危険を感じる冷静な心、避難を決断する勇気が必要です。

 短時間強雨が発生しやすいとき、気象台は天気予報や注意報・警報で「大気の状態が不安定」「急な強い雨、落雷、突風に注意」などと伝えます。これらのキーワードを見聞きしたあと野外にいて気象情報を入手できない場合は、周りの空や川の様子に注意します。空が急に暗くなる、雷が鳴り出す、冷たい風が吹き出す、大粒の雨や「ひょう」が降り出す、川の水かさが増えるなど、積乱雲が近づいている、上流で大雨が降っている兆しを察知したら、すぐに水辺や低地から離れましょう。気象庁ホームページの「雨の強さと降り方」に、雨の強さと災害発生状況がまとめてありますので、災害をイメージする参考にしてください。







(上毛新聞 2011年9月8日掲載)