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大川美術館館長  寺田 勝彦(桐生市宮本町)



【略歴】東京都出身。学習院大大学院修了(美学美術史専攻)。学習院女子高等科科長などを歴任。学習院名誉教授。清春白樺美術館理事。日本ユネスコ協会連盟会員。


いま何を学び伝えるか



◎「無関心」ではいけない



 毎年8月は、平和について考える季節である。15日の終戦記念日には「世界の恒久平和」を、6日の広島と9日の長崎と続く原爆の日には「核兵器廃絶」への願いを繰り返し考えてきた。先の太平洋戦争の無謀な戦いは、大量の尊い命を奪っているが、66回目の今年、未曽有の大震災によって再び多くの大切な人命を失うことになってしまった。

 街々は崩壊し、家や学校は流され、死者・不明者は2万人を超えている。そのうえ原発事故の発生により、いまなお8万人もの人びとが住み慣れた故郷を追われ、過酷な避難生活を強いられているのである。言うまでもないが、いま政治の緊急課題は、こうした被災地の復興はもとより、まずは原発事故の収束であり、放射性物質の除去作業や補償問題等の解決であろう。にもかかわらず肝心の政府や国会は、衆目の通り主導権争いに明け暮れている始末なのである。

 ところで、原発事故については人災との見方もあり、国や電力会社の責任は厳しく問われて当然だが、一方、国民の社会意識にも原因があったことを見落としてはならないと思っている。その一つは「無関心」の存在である。この国が世界でも有数の地震国であり、大津波も襲う島国でありながら54基もの原発の設置を許し電化生活の利便性のみを求めてきたからである。

 さて、今回の大地震では、数多くの美術館・博物館も被害を受けた。これに伴う被災施設や文化財の救援と修理・保存作業は目下、関係者や地元大学・学生の皆さんなどの協力により懸命に続けられている。そして、この8月に被災4県の美術館と茨城大学など9館の所蔵品を集めた「今、美術の力で」展が東京芸術大学大学美術館で開催された。

 災害に関する作品や資料、地元ゆかりの作品などを紹介する展覧会である。同展が東京で開催されることになったのは、被災した施設の現状と各施設には復興を支えていくであろう素晴らしい作品が所蔵されていることを広く伝えるためであった。

 しかし、少なくとも私が展覧会を観(み)に行った当日は、観覧無料(会場に募金箱を設置)であったにもかかわらず、残念ながら観客はまばらであった。

 その日は、同じ上野の国立西洋美術館へも足を延ばしたのだが、こちらはミュロンの≪円盤投げ≫を目玉とする「大英博物館―古代ギリシャ展」を開催中であり大勢の人でにぎわっていた。観覧料が大人1500円にもかかわらずである。

 この二つの展覧会の集客力の違いをどう見るべきか、その見方はさまざまであるとしても、いま「何を学び伝えることが大事か」に「無関心」であってはならないと思う。







(上毛新聞 2011年9月9日掲載)